2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年3月7日

 東日本大震災の被災地では、復興に寄与しようと、東北内外から多くの創業者が生まれた。ただ、そのほとんどが今では撤退してしまっている。創業者の思いを結実させるためには何が必要なのか。今でも現地で事業を続ける創業者の姿からその秘訣を探った。 

ダイビングショップを営む髙橋さん。地域の食とのツアーも模索中 (WEDGE)

 「生まれ育った海を再生させたい」。宮城県女川町の髙橋正祥さんは震災後にダイビングショップを立ち上げた。

 被災当時は、神奈川県のダイビングショップに勤務していたが、被災地に住む親族の手伝いで足を運ぶたび、幼いころから遊んでいた海が、がれきで埋もれているのを目の当たりにした。

 「ここに腰を据えてできることをやろう」と、内閣府による起業支援事業に手を上げた。行方不明者の捜索や海岸清掃のボランティア活動をしながら、三陸の海へと人を呼び込む活動を始めた。

 ただ、人々に津波被害の記憶が残る中では大きな逆風だった。「創業当時、海でレジャーを楽しむ人なんていなかった。多くの人に反対された」と当時を振り返る。そんな中で、経理に関する勉強会や創業者の仲間と集えるイベントといった支援事業者の取り組みは心強かった。「つながりができていく中で、自分のぶれないビジョンが信頼され、多くの人が助けてくれた」と髙橋さんは話す。

 関東地方を中心にダイビング体験の客を呼び込み、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年は売上が2400万円にもなった。

社会貢献と経営者の橋渡しがカギ

 地域商店街の活性化という目的の中、需要の変化で業態変換してきたのが天野美紀さんだ。

 東京で設計事務所を経営していた天野さんは知人の誘いをきっかけに、宮城県石巻市に夜行バスでボランティアに行っていた。そこで困ったのが、早朝に到着してから。ボランティア活動には時間は早く、飲食店なども空いていない。「温かい朝食を食べてゆっくりしたい」。ボランティアの合間にジビエをはじめとする地域の食の魅力に出会い、創業支援を受けて自ら古民家を改装して飲食店を開いた。

 他県から早朝に到着したボランティアや震災復興の仕事による単身赴任者、地元高校生の朝の待ち合わせ場所など、さまざまな用途で使われた。朝だけで50人ほどの客が来ることもあったという。客とのつながりや、支援事業者からの紹介により、地元商店街や県外での設計の仕事も入り、本業とともに地域に溶け込むことができた。

 復興が進む中で、街でイベントが開催されても、宿泊先がなく、地元に波及効果がないと感じ、飲食店をUターン移住者に譲り渡し、天野さんは現在、民泊を運営している。コロナ禍前に19年度は200人超が利用した。「地域の人に認められれば、仕切り直しをしながら何度もチャレンジができる」と話す。

 髙橋さんと天野さんに共通しているのは、自らの「思い」を事業に乗せながら、地域とのつながりを着実に作っていることだ。起業論を専門とする日本大学商学部の鈴木正明教授は「支援事業者は事業の相談相手になりうる経営者のネットワークを紹介し、つないでいくことが重要」と指摘する。創業者が創業者を生むという好循環をどうつくっていくのか。今後の課題だ。

Wedge3月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents     20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report     岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿

Part 1    「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ  
Part 2     大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた             
Part 3     行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点      
Part 4   過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか   
Part 5     その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ          
Part 6   〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか

  
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◆Wedge2021年3月号より


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