イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」
同紙がイスラエル当局者2人と米当局者の話として伝えるところによると、イラン船への攻撃を仕掛けているのは、イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」。同部隊はイスラエル建国後の早い段階から数々の秘密作戦を実行してきたという。イスラエルは従来、空爆でシリア駐留の革命防衛隊の基地などを攻撃してきたが、一連の船舶攻撃により、海上を舞台に新たな戦線が開かれた様相となっている。
イラン核合意については、トランプ前米政権が2018年に離脱し、イランに厳しい制裁を科してきた。これに対し、イランは核濃縮度を核爆弾製造に近づく20%に上げるなど合意破りに出て、両国の緊張が高まった。核合意への復帰を掲げて登場したバイデン政権は2月、イランとの直接対話を呼び掛けたが、イラン側が拒否。先月末になって欧州連合(EU)の仲介で両国が間接協議をすることで合意し、4月6日のウィーン交渉につながった。
間接協議では米国による対イラン制裁解除の手順と、イランの核開発制限に向けた措置に関する2つの専門部会が始動。イラン側は「前進があった」と評価したと伝えられている。9日には全体会議が開催される予定。米国の核合意復帰と制裁解除が容易に進むとは考えられないが、イスラエルのネタニヤフ政権は交渉が進展することに懸念を深めている。
イスラエルは核合意におけるイランの核開発の規制が2030年までしかなく、制裁が解除されれば、イランが再び核開発に出るのではないかと恐れている。このため、イスラエルとしては米国の核合意復帰をなんとしても阻止したいのが本音だ。
ベイルートの情報筋は「イスラエルが核合意の復帰交渉をつぶすためにイラン船攻撃を激化させている可能性がある。イランの報復を誘い、海上の“影の戦争”が激化すれば、米国内でイランの脅威論が強まり、バイデン政権の合意復帰にブレーキを掛けられると踏んでいるからだ」との見方を示している。
刑事被告人であるネタニヤフ首相が政権維持のためにイラン船舶への攻撃を強化する可能性があるとの指摘もある。先月実施されたイスラエルの総選挙では、どの党も過半数を獲得できなかったが、現在、ネタニヤフ氏が大統領から組閣を要請され、連立工作に入っている。
だが、連立工作が成功する見通しは明るくない。このため「ネタニヤフ氏がイランとの緊張を高めて、各党の支持を集めるという政治的な賭けに出ようとしているかもしれない」(同筋)。“影の戦争”が本格的な衝突に発展する恐れがある。
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