5月27日付のワシントン・ポスト紙に、ファリード・ザカリア同紙コラムニストが、「習の中国はオウンゴールするのを止められないように見える、中国の“平和的台頭”を語る時代はずっと前に終わっている」と題する論説を寄せ、習近平政権の外交政策を批判的に論評している。
ザカリアの論説は的を射たよい論説である。習近平になってからの中国外交が、鄧小平時代とその後とは様変わりしているというのはその通りであろう。「平和的台頭」を標榜していた中国はもはやないということである。
習近平のスローガンは「中国の夢」、「中華民族の復興」など、中国のナショナリズムを鼓舞するものである。こういうスローガンは中国人の心には響くであろうが、他民族には全く響かない。そういうなかで、国際協調の考え方は背後に追いやられてしまった。中国外交が、いまや自国利益を追求するあまり、攻撃的なもの(「戦狼」)になっており、国際社会がそういう中国への懸念を強めているのは自然であるように思える。
既にザカリアが記事の中で紹介しているが、米国人で中国に対する否定的な見方をしているのは2017年の47%から2020年には73%になった。カナダでは40%から73%に、英国では37%から74%に、豪州では32%から81%に、韓国では61%から 75%に、スウェーデンでは49%から85%に、いずれも急激に増えた。コロナの影響もあるだろうが、おそらくそれだけではないだろう。香港やウイグル問題を含む人権問題、貿易や投資での嫌がらせ、海洋進出等、様々な事柄が絡み合ってのことだろう。
習近平は相当内向きの政治家のようで、国内政治における自分の立場を盤石にすることに最も大きい関心があり、国際世論や他国の反応への関心がそれほどでもないからではないかと思われる。中国は大国であり、国外のことはほどほどの注意を払っておけばよいとの考えもありうるが、中国に対する評価が世界的に悪化していることには中国も気を付けた方がよいのだろう。「戦狼外交」とかでいい気になっていると、しっぺ返しを被る可能性がある。その予兆は、既に、ザカリアも論説で指摘しているように、世界各地(EU、豪州、インド等)で起きている。このザカリアの記事を読んでかどうかは分からないが、5月末の共産党の会議で、習近平は、世界に「愛される中国」となるよう世論戦を重視するよう指示したとの報道があった。
ザカリアは、論説の冒頭で、米国は様々な問題で左右の分断が起きているが、それが起きていないのが、中国への脅威だと指摘している。その証拠として、最近、米国の超党派の代表団が、相次いで台湾を訪問している。4月15日、ドッド元上院議員(民主党)とアーミテイジ元国務副長官らが、バイデン大統領の要請を受けて台湾を訪問した。また、6月6日、現役の上院軍事委員会のタミー・ダックワース議員(民主党)及びダン・サリバン議員(共和党)や上院外交委員会のクリス・クーンズ議員(民主党)の超党派議員団が台湾を訪問した。3月28日には、台湾と国交のあるパラオ共和国の大統領が台湾を訪問した際、駐パラオ米国大使が同行している。日本も、この米台関係に呼応するかのように、中国が禁輸した台湾産のパイナップルを輸入したり、中国が妨害した台湾へのワクチン供給に対して日本からワクチンを提供したりした。
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