2024年7月16日(火)

田部康喜のTV読本

2021年6月27日

ゾンダー・コマンドの任務とは

 ギリシャ語のメモを残したのは、マルセル・ナジャリで、元兵士だった。「私たちが命じられた任務について」と題して、ナチスの高度な殺りくのシステムについて書き残した。

 ガス室がある棟は、地下に巨大なふたつの部屋がある。ひとつは脱衣所で、もうひとつが「死の部屋」と呼ばれていた。「ひとつめ(の任務)は、収容者の受け入れだった。叫んでも泣いても、すべての人を地下室に連れて行って『シャワーを浴びる』といって、ガス室に誘導した」

 任務は、これで終わらなかった。上の階にある焼却炉に入れる。女性や子どもをまず運び出す。髪の毛は切って、クッションの材料に、金歯は延べ棒にして売る。

 ナジャリは、両親と姉を殺された。「ガス室で殺されるよりも、生きる道を選んだ。復讐のために、私は生きる」と。

 特定された、3人目のザルマン・レヴェンタルは、ポーランド出身であることと、20歳代だったことしかわかっていない。

 「私はごく普通の人間だ。この任務になれてしまった。生きるためにこうしている。残っているのは、二流の人間ばかりだ」

 ついに、ゾンダー・コマンドたちは「反乱」を計画する。1944年夏のことである。英国にある、ポーランド亡命政権がアウシュビッツに送り込んでいた、諜報部員と反乱計画者は接触する。先のゾンダー・コマンドが死体を焼いている証拠写真は、歯磨きのチューブのなかにフィルムが入れられて持ち出された。亡命政府は、世界にナチスによる大虐殺を訴えることを計画したのである。

 英国政府の内部文書が公開されて、非情な国際政治が彼らを翻弄したことがわかった。1943年1月にポーランド亡命政権から、英国に対して、ナチスの大量虐殺の情報はあげられていた。これに対して、英国は米国に対して、次のような結論を伝えていた。「ユダヤ人虐殺を問題にすれば、ドイツはユダヤ人を他国に追いやる。我々が彼らを受け入れれば、国民の抗議を受ける」と。すでに、亡命してきたユダヤ人に対して、「仕事を奪われる」という世論がわきあがっていた。

 このドキュメンタリーは、フランクルの「夜と霧」に劣らない作品である。

  
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