2024年11月22日(金)

Washington Files

2021年7月5日

 2016年米大統領へのロシア不正介入については、その後、米上院情報特別委員会がFBI,CIA,NSAなど米側最高情報機関の情報をまとめた調査報告(1313ページ)の中で、①プーチン大統領の直接指示の下で、ロシア政府がトランプ候補当選めざし大規模な選挙妨害工作を行った②しかも広範囲にわたるサボタージュ作戦遂行にあたりトランプ選挙陣営との様々な接触があった③さらにトランプ候補およびスタッフがロシアによる選挙介入に加担した④外国勢力による米国大統領選挙介入としては史上最大規模となった―などの事実が明らかにされた。

自国政府機関より“敵対国”指導者の発言を支持するという、前代未聞の椿事

 しかし、トランプ氏は在任中、これらの米国情報機関の調査について「信用できない」と徹底無視し続ける一方、2018年ヘルシンキで行われたプーチン大統領との首脳会談の席上、報道陣を前に、「プーチン氏は私との会談で、選挙介入を否定した。自分はプーチン氏の言葉を信じる」と答え、自国政府機関より“敵対国”指導者の発言を支持するという、前代未聞の椿事として米国内で大論議を巻き起こした。

 こうした経緯から、米国情報問題専門家の間では、その後の動きを見ても、ロシア側は2016年米大統領選で「トランプ大統領に貸しを作った」との判断の下で、弱みを抱えるトランプ大統領在任期間中に対米サイバー攻撃をエスカレートさせる結果を招いた、との見方が有力となっている。

 この点で、注目されるのが、今年4月9日、公表された米各情報機関統括の「US Intelligence Community」が作成する「年次脅威評価」レポートだ。

 同レポートは、とくに「ロシアは2016年以後、スパイ活動、対外影響力行使、攻撃能力のいずれの面においても一層の能力向上を図っており、わが国にとって『サイバー上の最高脅威top cyber threat』となっている」と前置きした上で、具体的に以下のように論じている:

「ロシアは、わが国および同盟諸国の海底ケーブル、各工業制御システムなどを含む決定的に重要なインフラをターゲットにしたサイバー攻撃を企図しており、国際危機発生の際に、これらのインフラを機能不全に陥れるだけの能力を保有している」

「ロシアは昨年実施した、サプライチェーンに対するソフトウェア作戦にもみられる通り、すでに米国内の公的機関、私企業の活動をかく乱する能力と意図を保有している」

「ロシアはまた、自国政府の安定維持に対する脅威から防衛するため、多岐にわたるサイバー作戦を展開している。2019年には、政府活動について調査中だったジャーナリストおよび組織に対し、サイバー攻撃を行った」

「ロシアは疑いもなく、サイバー攻撃について敵対国抑止、紛争遂行などを目的とした当然のオプションと位置付けている」

 一方、米議会では、野党共和党議員を中心に、バイデン大統領がプーチン大統領相手に、16項目のインフラリストを示し、サイバー攻撃のオフ・リミットとするよう迫ったことに対し、異論が渦巻き始めている。

 すなわち、「ロシアに対し、16分野に限定してサイバー攻撃をしないよう迫ったということは、言い換えれば、それ以外のインフラへの攻撃に“青信号”を出したことになる」というものだ。

 この点について、「Hudson Institute」のレベッカ・ハインリッヒ上級研究員は、Fox Newsテレビ番組で以下のように語っている:

 「ロシア側に攻撃してほしくない項目を予め赤マルで印をつけることは、それ以外のインフラ分野は大して重要ではないので、攻撃されても報復しない、との誤ったシグナルを敵に送るのと同じだ。ロシアは対米サイバー攻撃を立案する際、その分、ターゲットの選択が容易になる」

 「Heritage Foundation」のカラ・フレデリィック研究員も「ロシアの犯罪グループは政府の暗黙の了解を得て行動している。米側としては、16分野であろうがなかろうが、攻撃を受けたら、ロシア側のネットワークを一網打尽にするべきだ」として、バイデン大統領を強く批判した。

 米議会でも「大統領が16項目を示したこと自体、異常きわまりない」(ロン・ジョンソン共和党上院議員)、「首脳会談は最も恐れていた結果となった。プーチンに対し、大統領はどんな分野に対する攻撃であれ断じて黙認しない、との決然たる態度を示すべきだった」(イーライズ・ステファニク同党下院議員)など、主として共和党内で不満や批判の声が挙がっている。

 いずれにしても、米露両国によるサイバー攻撃合戦は、先の首脳会談結果いかんに関わらず、今後、下火になるどころか、さらにエスカレートしていくことは間違いないだろう。

 また、インフラ16項目については、わが国も、ロシアのみならず中国などからのサイバー攻撃対象となり得るだけに、決して“対岸視”は許されない。政府陣頭指揮の下、出来るだけ早急に、「16項目の重要インフラリスト」を参考にした上で、日本としての具体的な防御措置を講じる必要に迫られていることは言うまでもない。

  
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