2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月12日

andriano_cz / iStock / Getty Images Plus

 6月16日のバイデン政権下の初の対面での米ロ首脳会談が開催されて丁度1週間後の6月23日、黒海を無害通航中の英国海軍の駆逐艦に、ロシア軍の戦闘機と沿岸警備隊の船舶が危険なほど接近するという事件が起きた。この日は、EUの首脳会議で、ロシア問題が討議されている日でもあった。

 これを受けて、6月26日付の英フィナンシャル・タイムズ紙が、「欧州はロシアのプーチンをどう扱うべきか。黒海での衝突は破壊的なクレムリンとの緊張を示す」との社説を掲載し、欧州の対ロ政策を論じている。

 フィナンシャル・タイムズ紙の社説は的を射た良い社説である。6月16日のジュネーブでのバイデン大統領とプーチン大統領との米ロ首脳会談の後、EUもロシアとの首脳会談を再開すべきであるとの提案が、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相から出されていた。この提案は、6月25日のEUの首脳会議で議論されたが、独仏提案に対しポーランドやバルト3国などが強く反対し、ロシア・EU首脳会談はまだ再開しないことになった。

 EUも首脳レベルでロシアと対話すべし、関与すべしとの独仏の提案は、バイデン・プーチン会談に刺激を受けたものと思われる。しかし、EUがそもそもロシアとの首脳会談を停止したのは、ロシアのクリミア併合と東部ウクライナでの親ロシア派を使っての傀儡政権樹立とその後の戦闘状況の常態化に対する対抗措置として行ったことである。この歴史を無視し、また、クリミアの状況、東部ウクライナでの状況が改善するどころか悪化している中で、独仏のEU・ロシア首脳会談再開提案は筋の通らない提案であり、これがEU首脳会談で拒否されたのは当然のことであると思われる。

 ロシアと対話すること、関与することはロシアの破壊的活動を抑えるためには必要であるが、そういう試みに乗り出す前に、その試みが成果を上げる見通しがあるのかないのかを情勢判断で確かめてみる必要がある。

 フィナンシャル・タイムズ紙の社説の最後のほうに出て来る元米大統領補佐官のフィオナ・ヒルの意見には賛成できる。今のロシアの指導部は情報機関出身者が大きな部分を占め、国内でのチェックとバランスはなく、「違法な手段」も含めやりたい放題のことをしており、普通の国ではないというのはその通りではないかと考える。こういう相手との関係を考えるときには、適切な不信感を持ち、相手の意図を疑う慎重さが必要で、対話のための対話、関与のための関与ではなく、対話、関与で成し遂げるべき政策目標をしっかりと持って、対話、関与をしていくことが肝要ではないかと考えている。

 クレムリンに新しい指導者が現れるまでロシアの破壊的活動を抑えていくことがなしうる最善策ではないかとのこの社説の結論は現状ではやむを得ないものであろう。

 尚、中ロ両国は、6月28日に習近平とプーチンがオンラインで会談し、中ロ善隣友好協力条約が期限を迎えるが、あと5年延長することに合意した。中露の結びつきはますます強くなっている。この点も、注視しておく必要があろう。

  
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