中国の活動は、日本の主権を侵害する明白な侵略行為であるにもかかわらず、今年になって初めて「防衛白書」に国際法違反を明記したこと自体、その呑気さにはあきれてしまう。危機と正面から向き合わず、不作為を続ける政治が何をもたらすのか。それは現下のコロナ敗戦をみれば明らかだ。
生かされなかった危機回避の提言
尖閣危機が具体的に語られるようになるのと時を同じくした2010年6月、厚生労働省の有識者会議である「新型インフルエンザ対策総括会議」が、ワクチン開発の支援や推進、生産体制の強化などを求めた提言を政府(民主党政権)に提出した。09年に海外で感染が広がった新型インフルエンザを教訓にした報告書で、特に「ワクチン」に関する提言は特筆される内容だった。
要約すると、①国家の安全保障という観点から可及的速やかに国民全員分のワクチンを確保するため、ワクチン製造業者を支援し、開発の推進を行うとともに、生産体制を強化すべき。②危機管理の観点から複数の海外メーカーと連携しつつ、ワクチンを確保する方策を検討すべき。③ワクチン接種について、集団接種で実施することも考慮しながら、あらかじめ接種の予約、接種場所、接種方法など実効性のある体制を計画すべき――という内容だ。
国家の安全保障、言い換えれば「有事」という認識を持ち、国民全員分のワクチン確保という目指すべき目標を決め、そのための手段や方法に優先順位をつけた内容だ。まさに今のパンデミックで国民が切望していた内容だ。
だが、時の政権与党や厚労省、そしてその後の政権も、過去の予防接種訴訟で国が賠償責任を問われたこと、ワクチン接種に慎重な国民性などを理由に、提言は顧みられることなく放置されてきた。誰が、どういう判断で、この提言を放置したのか――。提言が少しでも実行に移されていれば、コロナ対応をめぐる混乱の一部は回避されたはずだ。
政府は21年6月、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定した。10年に及ぶ政と官の不作為が、コロナ対応の失敗をもたらしたことは火を見るよりも明らかだ。
そして今、同じことが尖閣危機でも起きようとしている。10年前に比べ、能力を格段と強化した中国は、当時の想定に加え、武装船の権限を大幅に強化し、海上民兵らによるパラシュート降下や潜水艇を使った隠密上陸も可能な状況となっている。もはや日本には、グレーな状況をこれ以上放置し続ける猶予などない。
尖閣の島々は日本固有の領土だ。守るべき領土を土足で踏み荒らそうとする中国に対し、いま何をなすべきか。それは尖閣に指一本触れさせない覚悟と力を示すことしかない。