発売10年ではロングセラーとは呼ばないですね。お客様に長く愛用して頂ける商品を作り続けてきたのが私たちの会社の価値だと思います」
画材・文具メーカー「マルマン」(東京都中野区)の井口泰寛社長はほほえむ。何せ、看板商品ともいえる「図案スケッチブック」の発売は1958年。60年以上にわたって顧客に支持され続けているのだ。黄色と深緑の大ぶりなチェック柄を表紙に持つ「図案スケッチブック」を使った記憶のある人も少なくないに違いない。「発売10年以上の商品が全体の6~7割を占めると思います」と語る。
最近のヒット商品は、と聞いて挙がったのが「ルーズリーフミニ」。発売は2012年だから、マルマンの商品群の中では「新商品」の部類だ。人気のキャラクターを表紙に使ったり、中身は同じでも表紙のデザインを目新しく変えることが多い文房具業界にあって、マルマンの路線は対照的なのである。
品質には手抜きをしない
国内製造にこだわる
だが、ロングセラーの商品は作ろうと思って作れるものではない。顧客が飽きずに買い続け、支持され続けて初めてロングセラーになっていく。なぜ、マルマンの商品の多くがロングセラーに育ってきたのか。
「価値を認めて頂いて買って頂くという基本に忠実な会社なのです」と井口さん。「モノづくりは何といっても品質なので、品質については絶対に手抜きをしない。真面目にしっかり作る。これをずっと続けてきています」
多くのメーカーが海外に生産拠点を移す中で、マルマンは国内製造にこだわってきた。コストが安い中国での製造も検討したことがあるが、品質を維持できないと断念した。製品の品質を守るには、日本人の繊細さが何より必要だと感じたという。輸入して扱う高級画材を除いて、マルマンの商品のほとんどが国内製造の自社製品だ。
当然、品質勝負で、価格競争には参入しない。マルマンの商品の価格はやや高めだが、気にいると使い続けるユーザーが少なくない。筆者も独立して10年以上、同じ種類のB5判ノートを取材メモ用に使い続けているが、改めてそれが「セプトクルール」というマルマンの商品であることに気づいた。
「ペンで何かを描く場合に、書きやすいというと、ペンを褒める人が多いのですが、実は紙の質で書き心地はまったく違います」。マルマンが使う紙は、製紙会社の協力を得て作った自社専用のもの。紙の品質にも徹底的にこだわっているのだ。もっとも同じ作り方を続けていれば品質が保たれ、顧客の支持が続くというものでもない。製紙会社の技術進歩で紙自体の製造方法が変わることもある。時代に合わせて品質を微妙に「進化」させることはあっても、劇的に変えることはしない。