インドネシアは米中二大国が競争する中で、インド太平洋の戦略バランスに影響を与えうる存在である。シンガポール国立大学の上級研究フェロー、エヴァン・ラクシュマナが、Foreign Policy(電子版)8月26日付の解説記事‘Indonesia Unprepared as Great Powers Clash in Indo-Pacific’で、そのことを強調しつつ、「インドネシアの政策当事者は、自国の戦略的独立や弱みに対処する方途を見出す代わりに、従来の受け身の戦術に固執し、大国の申し出を待つことで満足しているようである」と批判する。
解説記事は、インドネシアの外交の特色として、1)ASEAN重視、2)米中との等距離政策、を挙げている。ラクシュマナは、インドネシアはASEANをインド太平洋での大国政治に関与するのを避ける口実に使っている、と批判する。
等距離政策については、インドネシアは大国のうちの一国の犠牲の上に他の一国と近寄り過ぎないよう注意するとともに、両大国と諸分野での協力を等しく進めるよう努めてきたのであり、今日インドネシアが「中国の平和」も「米国の平和」も望まないことを意味する、と指摘する。
さらに、等距離政策は、憲法に定められたインドネシアの「独立で積極的な」原理に深く根差した積極的な政策であると言う。この記事の趣旨は、インドネシア外交のこの二つの柱は今や現実に即しておらず、インドネシアはインド太平洋でより積極的な役割を果たすべきである、ということである。
ASEAN重視については、インドネシアはASEAN最大の国としてのASEANのリーダーとしての地位を保っており、米中などはその地位を認めている。ただASEAN自体が国際政治の中でどれほどの重要性を占めているかについては疑問符が付くのであり、その意味でASEANのリーダーであることでインドネシアが世界の中でどの程度重要な国と考えられるかの問題がある。
米中との等距離政策については、インドネシアにとって米中の重要性は大きく異なる。米国はインドネシアにとって安全保障上の同盟国ではないが、重要なパートナーである。最近では8月1日から米・インドネシア両国の陸軍が、スマトラ島などで離島防衛演習を行っている。これが中国を念頭において行われたものであることは明らかである。