2024年4月26日(金)

教養としての中東情勢

2021年11月24日

 料金はパッケージツアーで50万~150万円ほどだという。報道によると、ベラルーシの国営旅行会社ら2社は5月ごろ、アラブ各地で欧州行きを望んでいる人たちを同国に運ぶことで合意していたといわれ、難民をポーランドなどに送り込んでEUを揺さぶるというルカシェンコ氏の意向を受けた〝国家計画〟だったとの見方が強い。

 その証拠に、ベラルーシ入りした難民たちは治安部隊から国境の鉄条網を切断するためのカッターや通り抜けの穴を掘るためのスコップなどを手渡され、越境地点まで案内されている。ルカシェンコ氏は「スラブ人は思いやりがあるから誰かが助けたかもしれない」と越境支援を暗に認めている。

トルコのエルドアン大統領の手法を真似る?

 ではなぜ、ルカシェンコ氏はこうした行動に出たのか。その理由は昨年8月の大統領選挙にある。同氏は94年から大統領の地位にあり、昨年の選挙で6選を決め、27年間も権力の座に就いている。だが、不正選挙の疑いが濃厚で、各地で大規模な抗議デモが発生した。同氏は反体制派を徹底的に弾圧、反体制派の有力者らは国外に逃れた。

 EUは選挙結果を「ねつ造」と非難し、ベラルーシ当局者らの資産を凍結するなど制裁を発動。だが、ルカシェンコ氏は今年5月、反体制派ジャーナリストが搭乗していた国際線旅客機を強制着陸させて拘束するという「国家ハイジャック」を引き起こし、米欧から追加制裁を受けた。

 ルカシェンコ氏は今回、大量の難民を組織的にEU域内に送り込んでEU諸国を動揺させることにより、「制裁の解除」と「ルカシェンコ政権の承認」を目論んだようだ。だが、EUは逆に態度を硬化させ、難民を運んだ航空会社などに対する制裁を決定、同氏の思惑は狂うことになった。

 同氏は今回の計画をトルコのエルドアン大統領の手法を真似て実行したと見られている。エルドアン氏は2015年の欧州難民危機の際、「難民に国境を開放する」と脅してEUから莫大な難民支援を受け取った。ルカシェンコ氏はこの手法を手本にした公算が強い。だが、弱者である難民の「欧州行きの夢」に付け入り、自らの権力維持や政治目的のために難民を弄んだとすれば、決して許されることではないだろう。

「欧州の統合」に逆行する動き

 しかし、今回の事態はEU側にも「欧州の統合」という理念とは逆行する動きを引き起こしている。EUの理念は域内の各国が国境の壁を取り払って自由に往来できる共同体にするというものだった。だが、前回の難民危機以降、ハンガリーなどで難民の流入を阻止する新たな壁が建設され、今またポーランドやリトアニアで壁の建設が始まっている。


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