サイバー攻撃の脅威が複雑化・巧妙化する中、サイバー人材不足が深刻なレベルにある。
情報セキュリティー専門会社のNRIセキュアテクノロジーズ(東京都千代田区)の調査では、セキュリティー対策に従事する人材の充足状況について、日本企業の86.2%が「不足している」と回答した。
同社の渡部惣マーケティング・プロモーション部長は、「社内のサイバーリスクを〝鳥の目〟で俯瞰し、長期的な戦略を策定できる人材の雇用・育成が大事だが、多くの企業は後手に回っている」と指摘する。
高等教育機関におけるサイバー人材も増えていない。文部科学省の統計では、修士課程修了者の博士課程への進学率は2000年に16.7%だったのが、20年は9.4%と減少している。中でもサイバー人材はその傾向が顕著だ。サイバーセキュリティーに詳しい早稲田大学基幹理工学部の森達哉教授は「研究内容が実務と直結するサイバー人材は企業から引く手あまたで、博士課程に進学せずに就職する学生が多い。これではサイバーセキュリティーの深層をとらえることができる人材の輩出につながらない」と嘆く。
事実、インターンシップに参加した学生を「青田買い」する企業もあるようだ。某アプリ運営会社のインターンに参加した石井大地さん(仮名)は「月50万円の報酬が支払われた。『正社員になればさらに高待遇で雇用する』と勧誘される修士課程在学中のインターン生もいた」と内実を明かす。
社員の学費を補助する博士課程進学支援制度を導入しているリチェルカセキュリティ(東京都文京区)の黒米祐馬取締役CTOは「日本企業では課題解決に博士の高度な知識や技能を要さない場合が多い。在学中は経済的に困窮し、研究成果を実世界に還元する道筋が見出せないとなれば、博士号取得を目指す意欲は湧かないだろう。企業の課題に学術的訓練を積んだ人材を生かす土壌作りも重要だ」と語る。前述の森教授は「企業が博士を厚遇することで、博士号取得を目指す学生の増加につながり、その力が企業や社会に還元されるだろう」と話す。
日本のサイバー人材の育成は前途多難だが、足元では社会全体で人材を育成する取り組みが始まっている。
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