また、これら穏健派左翼政権もそれぞれの独自の国内事情があり、政権成立に共通する背景があるとしても、今後どのような政権となっていくかを一律に論ずることはできない。特に、共通点があるとすれば、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアのような時代錯誤的で、国家主義的で、権威主義的な左派とは一線を画すことであり、また、独裁政権を目指すといった心配は小さいことであろう。
いかに経済活動を維持し、改革するのか
もし、ボリッチが真の人権主義者であれば、これらの国の指導者に共感しえないはずであり、また中国やロシアに対しても同様であろう。外国からの内政干渉に反対する原則的立場から、他国の人権問題に積極的に発言することまでは期待はできないが、いずれにせよ単純に反米的傾向が強まるということではない。
チリの問題は、自由な市場主義済による外国投資や資源輸出により経済的繁栄を実現したにもかかわらず、国内格差が拡大し、十分な徴税が行われておらず社会サービスなどを通じた所得再分配機能が働かず、労働者保護も不十分で国民間の不平等感が高まり、パンデミックによりさらに増幅されたことにある。
チリにとって経済活動の水準を維持することは必要であり、ボリッチが勝利演説でマクロ経済に配慮しつつ改革を進めると述べたことは、今後に期待を抱かせるものである。チリが穏健な改革に成功すれば、ラテンアメリカで社会民主主義的な新たな発展モデルを示すことも可能かもしれない。どうなるかは、新内閣の顔触れや新政府の綱領、そして、来年に予定される憲法制定会議の新憲法案がどのようなものとなるかが判断の基準となるであろう。