2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2022年2月16日

 続いて2014年2月27日、「民兵」を装ったロシアの参謀本部情報総局(GRU)、スペツナズ(特殊任務部隊)所属の秘密部隊、空挺部隊などからなる1万人近くの兵員がウクライナ・クリミア自治区主要都市セバストポリを占拠、民主派首長を排除すると同時に、親露派リーダーを後継者として入れ替えた。この結果、クリミア自治区全体がロシア領に編入された。

 しかし、この時もオバマ民主党政権は、政権転覆の暴挙を予知できず、米議会聴聞会で中央情報局(CIA)長官、統合参謀本部議長らが野党共和党議員たちに厳しく糾弾された。主要メディアからも「米側スパイ衛星の常時監視の目を欺き秘密作戦を陣頭指揮した国家保安委員会(KGB)出身のプーチン大統領とのインテリジェンス・ウォーで敗北した」としてオバマ大統領も批判の矢面に立たされた。

 そして、今回、バイデン民主党政権がウクライナをめぐり、もし、露軍侵攻のサインを事前にキャッチできなかった場合、再三にわたる国民の信頼失墜は必至だった。

 幸いにも、米側は、過去2回の国際危機での苦い経験から、その後とくに、CIA、国防情報局(DIA)、国家安全保障局(NSA)などを総動員した対露インテリジェンス能力強化に乗り出したことが知られている。

 今回の「ウクライナ危機」は昨年12月3日、「ロシアが対ウクライナ作戦に17万5000人もの大規模戦力投入準備」とするワシントン・ポスト紙の警告記事が火をつけたものだが、この記事は、ロシア軍内部に踏み込んだ高度の米側インテリジェンスを下にしたものであり、米側情報当局による意図的リークであることは明らかだ。

 バイデン政権はそれ以来、矢継ぎ早にロシア軍関連機密情報を積極的に公開し、国内、国際世論喚起にとくに力を注いでいる。

情勢の行く末を注視する中国はロシアと距離を置く?

 ②次に、バイデン政権が、中国による台湾侵攻の可能性と関連付けている点が挙げられる。

 プーチン大統領は今月4日、北京で、習近平国家主席と2年ぶりの首脳会談に臨んだ後、5364字に及ぶ長大な共同声明を発表、この中で両国が米国と対抗する「連携強化」を確認し合った。しかし、ウクライナへの直接言及はなかった。中国側は、ロシアに自制を求める国際世論が盛り上がりつつあることから、今回あえてこの微妙な問題についてプーチン氏とは距離を置いたとみられている。

 しかし、中国はその一方で、ロシアが実際にウクライナ侵攻に踏み切った場合、米欧諸国が具体的にどのような対応を見せるかを注視していることは間違いない。すでにバイデン政権が予告している「対露経済制裁」についても、単にその内容だけにとどまらず、それがどれくらいの長期に及ぶのか、また、欧州のいくつの国がいつまで米国と同一歩調をとり続ける覚悟があるのかなど、すべてが重大関心事だ。

 そしてもし、ロシアが何らかの形でウクライナに侵攻後、14年クリミア併合時と同様、時間をかけ既成事実化させていくことに成功したとしたら、それは言うまでもなく、中国を台湾侵攻に踏み切らせる呼び水になる。

 今世紀以来、「アジア・シフト」の戦略を推進してきた米国にとっては、中国の台湾侵攻は実は、ロシアのウクライナ以上に最悪事態であり、何としてでも回避させなければならない事情がある。さらに、中国人民解放軍が大挙して一挙に台湾に攻め込んだ場合、米軍の防戦は事実上不可能、というのが米側専門家たちの大方の見方だ。

 従って、バイデン政権の当局者たちは、当然のことながら、今回中国が「ウクライナ危機」に異常なほどの関心を抱いていることを十分理解しており、当面は、なんとしてもプーチン大統領に侵攻計画の再考を促す必要に迫られている。

 目下のところ、ホワイトハウスや国務、国防総省が連日のように、ロシア軍部隊の動きを積極的に内外に公表し、「侵攻切迫」警報を鳴らし続けている狙いも、まさにそこにある。

 その結果、何らかの形で米露間が歩み寄り、危機の地雷を除去することができたとすれば、中国側も今後、対台湾戦略の見直しを余儀なくされることにもなりかねない。


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