外交方針上、プーチンの要求は受け入れられない
③バイデン大統領は昨年春、就任100日目を迎えた記者会見で外交基本戦略を説明、その中で、中国とロシアの両国を「専制主義国家」と位置付けた上で、自由主義世界全体として今後、「専制主義との戦い」に断固たる姿勢で臨むことを強調した。これは、その後のバイデン外交の「大看板」ともいうべきものだ。
そこに現れたのが、「ウクライナ危機」だった。
バイデン政権側からみれば、今回の危機は、ロシア側が一方的に作り上げたものであり、初めから妥協の余地はあまりない。
これに対し、プーチン大統領はこれまで、米欧主要国首脳との数回にわたる対面、電話会談を通じ①北大西洋条約機構(NATO)をロシア近隣の東欧に拡大させない②ウクライナのNATO加盟を認めない――の2点を繰り返し求めてきた。
しかし、まず①については、NATOへの参加は機構の性格上、各国の自由意志を前提としたものであり、プーチン体制下で勢力拡大に乗り出しているロシアの存在を脅威と受け止め、自国の安全保障上の理由から参加を新たに希望する国があれば、それを拒むわけにはいかない。従って、ロシアの軍事力強化と勢力拡大が続く以上、今後、NATO加盟国は増えこそしても減ることはあり得ない。
②についても、ウクライナ国内北東地区にロシア系住民が居住するものの、世論調査では国民の65%近くが「NATO加盟」を支持している。ゼレンスキー大統領も加盟への期待感を表明している。また、逆にロシアへの編入を希望する国民は少数に過ぎない。
バイデン大統領としては「専制主義との戦い」を外交基本方針として大々的に掲げているだけに、こうしたウクライナを取り巻く国際環境の実態を無視するプーチン氏の要求は受け入れることはできず、ましてや、ロシア軍によるウクライナ侵攻はいかなる意味でも容認できないという立場だ。
中間選挙や内外経済への影響も必至
④「ウクライナ侵攻」が国内政局にもたらす影響も無視できない。
とくに11月中間選挙を控えている時だけに、バイデン大統領としてはもし、「ウクライナ危機」対応で失敗すれば、ただちに深刻な支持率低下に直面する。
内政面での当面の重要課題は、いぜん収束を見せないコロナ対策と、国民生活を圧迫しつつある7%近くの物価上昇の2つだ。
加えて外交面で結果的に、ロシア軍のウクライナ軍事侵攻を許し、その対抗措置として欧州、アジア諸国をも巻き込んだ大規模な経済制裁に踏み切った場合、国際経済の混乱は拡大し、その波紋は米国市民生活にも広がることは必至だ。
与党民主党はこれまで、上下両院ともに薄氷の差で制してきたが、今年11月中間選挙では、ただでさえ当初から苦戦を強いられてきている。
今後、かりにバイデン政権が早期のコロナ収束とインフレ退治に成功した場合でも、中間選挙については「下院では共和党が十数議席差で多数を制し、上院は五分五分」というのが、最近までの下馬評だった。
しかし、「ウクライナ侵攻」の結果、内外経済情勢に悪影響が広がったまま投票日を迎えた場合、下院はおろか、上院も共和党に明け渡すことになり、ひいては24年バイデン再選戦略にとっても致命的となる。