2024年7月16日(火)

21世紀の安全保障論

2022年2月22日

 北朝鮮による極超音速ミサイル発射のニュースが冷めやらぬ10月1日、「朝鮮中央通信」は、国防科学院が新たに開発した地対空ミサイルの発射実験を9月30日に行ったと伝えた。

 発射場所等詳細は明らかにしていないが、実験の目的は、性能と実用性を実証することにあり、「新技術の導入で制御システムの即応性と誘導の正確性、空中の目標を打撃できる距離を大幅にのばした」と評価している。

北朝鮮が軍事パレードに代わり「国防発展展覧会」を開催

 労働党創建76周年を迎え、10月11日に平壌で開催された国防発展展覧会では、過去5年間に開発した兵器を集め展示するとともに、金正恩総書記が演説した。従来は、このような行事に際しては、軍事パレードが行われ、車載のミサイルなどの行列が作られていたのと、全くの様変わりの様子である。北朝鮮国営通信社「朝鮮中央通信」(KCNA)が翌12日にミサイルなどの展示を大々的に報道した中には、金正恩委員長の執権後に開発した20を超える新しい武器を集めて国防力を誇示している。

 9月に試験発射した極超音速ミサイル(火星8型、KN-23)をはじめ、新型の「火星16」、これまでに公開されている2種類のSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの北極星5と北極星1の手前に、初めて見る謎の小型ミサイルが置かれて展示されていることが確認でき、韓国通信社、連合ニュースは『ミニSLBM』と呼んでいた。極超音速ミサイル火星8は、6軸12輪型(ムスダンおよび火星12で使われたもの)の車両に乗せられており、滑空弾頭は下面が平らで、円錐ではないウェーブライダー形状であることが、確認された。

国防発展展覧会では、SLBMや北極星5、北極星1だけでなく、初めて見る小型ミサイルもあった(労働新聞)

 また、北朝鮮中央テレビの動画配信では、筋肉質の大柄な男性が、素手で瓦を次々に破壊し、粉々になったガラス片の上に、上半身裸で寝転がり大声をあげるなどの派手なパフォーマンスや、楽団員たちの金正恩氏の顔を印刷したTシャツ着用にも驚かされた。金正恩氏は軍幹部らとともに拍手を送りながらこれらを見学していた。

 日本のメディアも、さまざまな解説者をそろえて報道したが、その意図については、明確に読み取ることができず、今後の推移を見守るべきとの意見が多かった。その中でも多かった意見は、「米国の気を引くため」、「国内の宣伝に重点」、「外国の武器展示会を見習ったもの」、「武器の輸出を考えているのでは」などで、それぞれの意見に関心が寄せられた。

潜水艦発射弾道弾にも成功

 韓国軍合同参謀本部は10月19日午前10時17分ごろ、北朝鮮が同日、北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)付近から、弾道ミサイルが日本海に向けて発射されたと発表した。日米韓当局は、新浦には、造船所があり、発射装置もあることから、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の可能性が高いとみられている。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は、20日に写真付記事を掲載し、「国防科学院は5年前に初の潜水艦発射弾道弾の発射を成功させ、共和国の軍事的威力を示した『8.24英雄艦』から再び、新型の潜水艦発射弾道弾を成功させたという誇りと栄光を手にし、党中央に忠誠の報告をおこなった」と説明した。これにより、北朝鮮が新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射実験に成功したことが明らかになった。発射後もいろいろな操作が行われており、ミサイルの進歩がうかがえた。

 同通信が公開した写真を見ると、潜水艦は2000トン級の〝鯨(コレ)級(新浦級)〟と推定され、潜水艦には「824」と明記されている。これは16年8月24日にハムギョンナムド(咸鏡南道)新浦近海からSLBM「北極星1号」の水中発射実験に成功したのを記念するものと見られる。ミサイルは北朝鮮が国防発展展覧会で公開した「ミニSLBM」と観測された。高度約60キロで、約590km飛行したと分析されている。

 北朝鮮は今回、何発発射したかは明らかにしなかった中で、韓国合同参謀本部は「1発発射」と発表し、日本の防衛省は「2発発射」と判断していた。韓国紙中央日報は、「8・24英雄艦(全長67メートル)は発射試験のために建造した潜水艦であり、1発だけ搭載して発射することができる」とし「(日本が2発発射と判断したのは)おそらく弾道ミサイルから分離した推進体の部分のようなものを誤って追跡した可能性がある」と報道した。

 この打ち上げ日の10月19日には、ワシントンで日米韓の北朝鮮担当高官会議が開催されており、また、韓国では、同じ三国の情報担当高官会議も開催されていたことから、その日を狙ったとの見方も出ている。

 米国の北朝鮮監視メディア「38North」は10月22日、このミサイル打ち上げは、「軍事的重要性よりも政治的(North Korea’s “New Type Submarine-Launched Ballistic Missile”: More Political Than Military Significance)」との解説記事を載せている。理由は、既に北朝鮮は、韓国や日本をターゲットとするには十分な到達距離を持つ移動式を含めた陸上発射のミサイルを保有しており、あえて潜水艦である必要がないからであるとしている。

 また、従前から水中発射は、潜水艦からではなくロシアから払い下げられたテスト用バージからではないかとの疑念があったが、「38North」は10月21日の紙面で、「SLBMミサイルへの新浦クラス潜水艦参画の証拠(Sinpho South Shipyard: Evidence of the SINPO-Class SSBA Participation in Recent SLBM Test)」と題する記事を掲載し、二枚の衛星写真を公開して、19年8月26日の写真では、岸壁に新浦クラスの潜水艦が係留されているが、21年10月20日の写真には、写っていない。一方、テスト用のバージは、両写真とも岸壁に係留されており、出動していないことが分かるとしている。


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