2024年4月19日(金)

21世紀の安全保障論

2022年2月22日

 海上保安庁は9月15日午後0時38分、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射されたと発表した。北朝鮮はバイデン米大統領の就任直後の同年1月22日と3月21日に巡航ミサイルを発射しており、ミサイルの発射回数が5回となった。

 9月16日付北朝鮮労働新聞は、短距離弾道ミサイル2発は、鉄道発射式だったと発表。この発射は、「鉄道機動ミサイル連隊」による発射訓練として行われたと1面で報じた。

 北朝鮮の公開写真を見たある専門家は「鉄道はトラックよりも速く、道路の状態が悪くてボディの長いトラックが入れない山間部に行くことができる」と指摘し、北朝鮮が攻撃手段を増やそうとしているとの見方を示した。

 また、9月17日付けの韓国「朝鮮日報日本語版」は、「北朝鮮、初めて鉄道車両から弾道ミサイル発射…奇襲が可能に」と題して、図面入りの解説記事を載せている。記事の中では、以下の通り解説している。

「北朝鮮が列車から弾道ミサイルを発射したのは初めてだ。さらに、北朝鮮が鉄道機動ミサイル連隊を創設したことも明らかになり、道路を中心に北朝鮮の弾道ミサイルを追跡している従来の韓米ミサイル監視・打撃システムの弱点を突くものだという評価が出ている。鉄道機動ミサイル連隊は今年組織されたもので、北朝鮮がこの部隊の訓練を公開するのも今回が初めて。北朝鮮がこの日公開した鉄道機動ミサイルシステムは、普段は列車格納庫にミサイルを積んで行き来し、停車後にミサイルを撃つというスタイル。列車は4両編成で、弾道ミサイルを搭載した発射台が車両内で横倒しになっている。発射場所で発射台を垂直に立てて撃つ方式だ。道路事情が劣悪な北朝鮮の実情を考慮すると、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が動ける道路は限られている。一方、北朝鮮全域にクモの巣のように張り巡らされた鉄道網を活用すれば、北朝鮮は弾道ミサイルをはるかに幅広く運用できる。列車に数発のミサイルを積んで行き来して発射したり、数多くのトンネルに隠しておいて奇襲的に撃ったりすることもできる。旅客用列車に偽装すれば、有事の際に韓米両軍が探知するのも攻撃するのも難しい」(一部略)

「極超音速ミサイル」にも挑戦

 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は同年9月28日午前、北部のチャガン(慈江)道トヤンリ(都陽里)で、国防科学院が新たに開発した極超音速ミサイル「火星8型」の発射実験を初めて行ったと報道した。

 「極超音速ミサイル」とは、弾道ミサイルとは異なり、マッハ5(音速の5倍)を超える速さで、低空軌道を長時間飛ぶため、探知や迎撃がとても難しいと言われているものだ。弾道ミサイルは、効率よく飛行できる代わりに飛行経路と着弾位置を簡単に計算されてしまうので、迂回機動をとることによって探知や迎撃を困難にするために開発された兵器である。主に「極超音速滑空兵器(HGV)」と「極超音速巡航ミサイル(HCM)」の2種類ある。

 極超音速滑空兵器とは、発射・加速をロケット(弾道ミサイル)で行い、上空で切り離した弾頭部分をグライダー(滑空翼体)のように大気中を高速で飛行させ、予測不可能な旋回や機動飛行をしてミサイル防衛システムによる検知と迎撃を困難にする兵器である。大気の上層部を大陸間弾道ミサイル並みのマッハ20で滑空し続けると空気の断熱圧縮で高温となる時間が弾道ミサイルよりも長くなり、かつ、高温でプラズマ化した空気が外部との通信を阻害して誘導を困難にすることから、開発には高度な技術が必要となる。

 この兵器は米国、ロシア、中国で研究開発されているが、公式に実戦兵器として配備予定が宣言されたものは現時点でロシアの極超音速滑空翼体「アヴァンガルト」のみである。アヴァンガルトは、大陸間弾道ミサイルと同等の最高速度マッハ20で、1万km前後の射程を持つとされている。

 極超音速巡航ミサイルは、ジェットエンジンを噴射し続けて飛行するが、マッハ5以上の極超音速を従来型のジェットエンジンで達成することは困難で、「スクラムジェットエンジン」など全く新しい設計のエンジンが必要となる。これに加えて速度が上がると当然熱の問題も出てくるので技術的には難しい。現時点で実戦配備予定が公式に宣言されているのはロシアの極超音速巡航ミサイル「3M22 ツィルコン」のみである。ロシアの報道では、性能はマッハ5~8、数百~1000kmの射程を持つ対艦攻撃用とされている。 


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