2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2022年3月11日

 ロシアからの供給の落ち込みを埋めるのが、他の供給ソースからの天然ガスだ。アルジェリア、ノルウェー、アゼルバイジャンなどからのパイプラインによる供給量増を21年比で10bcm、LNGによる供給増は、供給量に限りがあり、20bcmが可能と見込んでいる。

 さらに、太陽光、風力発電設備の導入増により、350億キロワット時(kWh)の供給を増やし、天然ガス供給量6bcm相当分を削減可能。フィンランドの新規原発の運転開始により200億kWh、バイオ燃料利用設備の利用率向上により500kWhの供給増。合わせて天然ガス13bcm相当の削減が可能。現在予定されている22年の3基の原発、23年の1基の原発停止を中止すれば12bcmの天然ガスを削減可能。

 暖房の設定温度の引き下げ、ガスボイラーのヒートポンプへの切り替え、ビルの断熱効果向上などの策を実施することにより、10の提言の合計では1年以内にロシアからの輸入量のほぼ3分の1に相当する50bcmを削減可能としている。さらに、天然ガス火力に代え、石炭火力を運転し1億2000万kWhの発電を行い、22bcmの天然ガスを削減可能。天然ガス火力のうち石油も燃焼することができる設備では石油を利用し6bcmを削減可能としており。合計ではロシアからの輸入量のほぼ半分に相当する80bcmを削減可能としている。

 石炭、原子力の利用、米国、カタールなどからのLNG購入など、できることを何でもやれば、ロシアへの依存度を引き下げることは可能だが、価格は大きく上昇する。しかも短期間に実行可能な政策は限られている。IEAと欧州委員会は、中期的には30年までにロシア産天然ガス依存度をゼロにすることも可能としている。

依存度削減によるエネルギー価格と電気料金の上昇

 ロシア依存度削減のため、LNGを購入すれば、液化コスト、輸送費の分高くなり、パイプライン経由の天然ガスよりも価格は上昇する。天然ガスに代え、石炭、石油を使用するにしても、今EUの石炭消費量の2割以上、石油消費量の約3割はロシアから供給されている。石炭と石油の代替供給国を見つけなければ、切り替えることは不可能だ。

 仮に供給国が見つかったとしても、電力価格が上昇する懸念がある。天然ガスよりも二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭、石油を使用すると、欧州内の排出量取引制度に基づきCO2排出量の増加分の排出枠を購入する必要がある。この購入費用は電気料金に転嫁されることになる。

 排出枠価格は、21年年初のCO21トン当たり30ユーロから上昇を続け、22年2月には100ユーロ寸前に達したが、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日から急落し始めた。その後少し値を戻し、3月8日時点で66ユーロ程度だ。

 石炭火力の発電量1kWh当たりにすれば6ユーロセントに相当する。天然ガス火力からも二酸化炭素が排出されるので、全ての負担になる訳ではないが、数ユーロセントの負担増になり、電気料金を押し上げる。


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