2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2022年3月26日

 さらに、『フォーリン・アフェアーズ』は去る2017年2月3日号でも、別の専門家による投稿記事を掲載。ドゥーギン氏について、①ロシア過激主義のシンボル的学者となった、②「海を支配する米英両国とロシア・欧州大陸との対決は不可避」などと論じてきた、③クリミア併合時に「ウクライナ人民殺害」を呼びかけたとしてモスクワ大学教授の職を解任された――といった点が紹介されてきた。

結びつく、過激思想とプーチンの行動

 そして今回、ドレール氏がワシントン・ポスト紙上で改めて論じたのが、ウクライナ軍事侵略という一段とエスカレートさせたプーチン氏の蛮行と、ドゥーギン思想との関係にほかならない。

 同氏はここで、次のように述べている:

 「プーチン大統領は、ウクライナ侵攻開始3日前の去る2月21日、国民向け演説で、ウクライナ国家および国民の存在を否定する演説を行い、その真意を測りかねた西側専門家たちを困惑させた。しかし、発言は決してタガの外れたものではなく、実はファシスト的予言者であるアレクサンドル・ドゥーギンなる人物の所業を踏まえたものだった。〝プーチンの頭脳〟ともいわれるドゥーギンは、欧州では30年近く前から新右翼としてその名が知られ、米国においても極右思想家の評判が高かった」

 「ドゥーギンは、欧州とアジアをリンクさせたユーラシア統合がロシアの戦略目標であるとの観点から、ライバルである米国においては、人種的、宗教的、信条的分裂を醸成させると同時に、英国についても、スコットランド、ウェールズ、アイルランド間の歴史的亀裂拡大の重要性を唱えてきた。英国以外の西欧諸国については、ロシアが保有する豊富な石油、天然ガス、農産物などの天然資源を餌食にして自陣に引き寄せ、いずれ北大西洋条約機構(NATO)自体の内部崩壊にいく、とも論じてきた」

 「プーチンはまさに、この指示を忠実に見守ってきた。米国では極右活動家グループが連邦議事堂乱入・占拠事件を引き起こし、英国はEU離脱を実現させ、ドイツはロシア産天然ガスへの依存を強めてきた。これらの動きに気を良くしたプーチンは、ドゥーギンの作成したプレイブックの次のページに目を転じ、『領土的野心を持った独立国家としてのウクライナこそが、全ユーラシアにとっての大いなる脅威となる』と宣言、今回侵略に踏み切った」

 「プーチンがいずれ、仮にウクライナにおける〝ロシア問題〟を処理できたとして、次に目指すものは何か? ドゥーギンが描く構図によれば、今後、ドイツがロシアへの依存度を一段と高めることによって、欧州は次第にロシア圏とドイツ圏へと分断されていく。英国は(EU離脱後)ボロボロの状態となり、ロシアは漁夫の利を得ることで『ユーラシア帝国』へと拡大・発展していく……というものだ」

 「ドゥーギンはさらに、アジア方面についても、ロシアの野望を実現するために、中国が内部的混乱、分裂、行政的分離などを通じ没落しなければならないと主張する一方、日本とは極東におけるパートナーとなることを提唱する。つまるところ、ドゥーギンは第二次大戦後の歴史の総括として、もし、ヒトラーがロシアに侵攻しなかったとしたら、英国はドイツによって破壊される一方、米国は参戦せず、孤立主義国として分断され、日本はロシアの〝ジュニア・パートナー〟として中国を統治していたはずだ、と論じている」

 ドレール氏は、上記のような極端なドゥーギン戦略論を説明した上で、結びとして「これらの指摘が妄想であることを願う。だが、その妄想を(プーチンのような)暴君が抱くとしたら、無視できないものとなる」と警告している。


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