アレクシエービッチは、2年前にベラルーシの独裁政権に反対する運動にかかわって、捜査当局の調べを受け、病気を理由として、事実上ドイツに放逐された。
彼女はいま、YouTubeで兵士たちのさまざまな証言を聞いているという。ウクライナの捕虜になったロシア兵が、自宅に電話した際に盗聴された音声である。
「ママ、僕だよ」
「どこ?」
(母親は、息子がウクライナに派遣されたのではなく、「演習」に行ったと聞かされていた)
「ママ、僕たちはここに人を殺しに来たんだ」
「どういうこと? どうしてそんなことに?」
「虐殺も略奪もした。僕たちはハリコフに爆撃している。ハリコフは、がれきの山になってしまった」
「(お前は)嘘をついているのではないか?」
アレクシエービッチは、プーチンのウクライナ侵攻を「ファシズム」と呼んではばからない。
「プーチンは、大ロシア主義に取りつかれた人間だ。それは、大セルビア主義や大ドイツ主義と同様な考え方で、流血しかもたらさい。私たちが目にしているような流血とファシズム以外は生まない。他民族を蔑視し、自民族の優位性を誇ることは、いまロシアで起こっていることは、ファシズムの最初の兆候なのだ」
「権力を握った当初、プーチンは民主主義者を演じた。すぐ、仮面を脱いだ。現在、権力の周辺にいる哲学者や宗教者は、民主的な考え方を拒否したエリートたちです。彼らはカネを崇拝し、偉大なロシアの再来を欲している」
悲観的にならず、憎しみでは救われない
それでは、知の巨人たちは、世界がこれからロシアに対してどのように接していけばいいいうのか。
思想家のジャック・アタリは語る。
「ネガティブにならない。悲観的にならない。弱気にならない。どんな交渉のチャンスも逃さない。そして、ウクライナやロシアなどの国で抵抗する勇気のある人たちを応援することだ」
ノーベル賞作家のアレクシェービッチは、次のように述べる。
「ウクライナの未来の世代、今の若者たちの子どもたちが成長したとき、ロシアの人々とどうやって話をするのか。救ってくれるのは愛だけだ。憎しみでは救われない」