――地元野菜の地産地消などの活動を順調にしていく中で、11年3月11日東日本大震災が起きてしまった。そして柏がホットスポットだと騒がれた。そうした混乱の中、円卓会議が発足したわけですね。
五十嵐氏:震災後、原発や放射能に関しネット上で消費者と生産者が罵り合う状態が見られました。それまでストリートブレーカーズとして野菜市を開催したり、柏の飲食店と農家をマッチングしたりと、様々な主体と関わりつながり始めていたので、柏では生産者と消費者の関係を壊すような、コミュニティの分断は避けなければ、そしてこの街でならそれができるはずだと強く思いました。
円卓会議には、野菜の生産者、消費者、流通、飲食店と様々な主体が参加しています。消費者に関しては、誰の目から見ても一番放射能を心配し、情報発信もしている幼稚園児や小学生のお母さん、そして農業関係のNPOをやっている方をメンバーとして迎えました。そういった多様な立場の人たちが集い、重要な事がらに関しては全員一致を原則とし合意形成をはかれば、この状況を脱することができるのではないかと。
――ホットスポットと騒がれ、柏産の野菜が低迷する状況で、円卓会議として幼稚園児の母親へアンケート調査をしますね。その結果から、それまで地元野菜を購入していた人たちが、震災後買い控えしていることが判明します。そこで独自の測定メソッド「その農場の中で最も汚染度の高いスポットを特定し、そこで育った作物を放射能測定する」で、自主基準値20Bq/kgを設けることになったのでしょうか。
五十嵐氏:基準値に関してはもう少し先になります。僕らとしても農家が独自に放射能を計り公表すれば、個別農場レベルの細かさで柏の野菜の安全性を強調できると思ったのですが、実際に農家が自主測定することはハードルが高いのです。なぜなら、万が一、自主測定した農家で高い数値が出てしまった場合、同じ地域の農業者に迷惑を掛けてしまう。農家というのは、代々その地域の農業コミュニティの中で仕事や生活をしてきた人たちが多く、そこから突出して自主的に行動することが難しい。そういったことを僕らも含め消費者側が理解出来ていなかった。
アンケート結果は、今まで柏の野菜を買うような、いわゆる食に関する意識が高い人が柏の野菜を買い控えしていることを明らかにしました。それと同時に、アンケート調査の自由解答欄には「農家の方々に申し訳ない」という内容の言葉が多く見られました。つまり、この人たちは適切な情報を発信すればまた戻ってきてくれるマーケットなのではないかと。このことは農家にとって強いモチベーションになりました。