2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2013年3月8日

――その適切な情報発信として独自の測定メソッドを考えていくことになると。

五十嵐氏:超濃縮ホットスポットの存在が報道されていたこともあり、当時の消費者は、市場での抜き取り検査に対し不信感を持っていました。つまり、一部を抜き取って検査しても、その他の野菜には放射能濃度が高いものが混じっているのではないかという不安です。

 ならば、円卓会議の強みである消費者と生産者の近さを生かし、そうした多様な主体が合意した測定メソッドで基準値を定めることはできないか。そして個別の農家が測定し情報発信をすることではないか。一軒一軒の農家の圃場の土壌とそこで採れた野菜を、消費者と農業者が協働して計り、これ以上の汚染度の野菜はその農場にはないというところまで示すことを積み重ねていく。そうやって一軒一軒の農家が情報発信をすることは、放射能問題に限らず、その後の「顔が見える」関係構築や地産地消というゴールにまで良い影響をおよぼすのではないか。そう考えました。

 また独自の基準値20Bq/kgに注目が集まりましたが、これは政府の規制値を不安視したことからの対抗意識ではなく、多様な利害を持つ主体が議論しすり合わせた結果です。ですから、消費者にとっては規制値のセカンドオピニオンなんです。

 ただ、その適切な情報発信は誰が主体なのかという問題が残ります。幼稚園児保護者のアンケート調査で、情報発信の媒体として最も信頼されているのは「テレビ・ラジオ」「インターネット」が6割を超えたのに対し「行政広報」の信頼度は1割という結果が出ました。また農作物の安全性の測定・確認の主体については、「大学や専門の測定機関」50パーセント、「市民・消費者」に「自分自身」を加えると30パーセントを越えました。この数字から専門機関のバックアップを受けた市民が発信していくことで信頼してくれる層もあると考えました。

――基準値を決める際に参考にしたのが国際放射線防護委員会(ICRP)のALARA原則「合理的に達成可能な限り低く」でしょうか。

五十嵐氏:基準値は、防護することの医学的メリットと社会的・経済的デメリットを天秤にかけ「社会で決める」ということですね。これについては科学者ならほぼ同意するでしょう。ですが、現状での「社会で決める」とは、食品安全委員会など、いくらパブリックコメントが出来るとはいえ、一般の市民からすればよくわからなかったり、経緯が見えにくかったり、遠い存在である場合が多い。しかし、柏という限られた空間であれば、様々な利害の人たちが集まり「社会で決める」ことができるのではないかと考えました。

 ただ、円卓会議で決定した数値にしても、測定方法にしても普遍的なものではないことを強調しておかなければなりません。当時の柏の環境で、汚染度で、会議に集まったすべての参加者が納得し、かつコストとしても見合うことで決めたのがその数値であり測定方法です。数値の大小ではなく、立場の異なる利害関係者を調整し決めたということにこそ、価値があると考えています。


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