日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2022年5月13日

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小山俊樹 (こやま・としき)

帝京大学文学部 教授

1976年広島県生まれ。99年京都大学文学部(日本史学専攻)卒。2007年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。17年より帝京大学文学部史学科教授。著書に『憲政常道と政党政治─近代日本二大政党制の構想と挫折』(思文閣出版)、『評伝 森恪─日中対立の焦点』(ウェッジ)など多数。

公判で急展開した世論

 事件の発生から約1年後の33年5月、秘されていた事件の概要が公表された。そして同年7月に陸海軍の軍法会議が開廷する。興味深いのは、殺害された犬養首相への同情論が強かった世論の動向が、公判の開始以後に急転回したことである。被告である軍人たちの助命を嘆願する運動が全国的に広がり、同年9月末までに70万筆を超える署名が提出された。

 世論が沸いた理由の一つは、被告たちの動機が法廷で明らかにされたことによる。彼らは口々に「犬養閣下には何の怨みもない」と言明した。そして農村の深刻な窮乏と荒廃を陳述し、政治の腐敗を徹底して糾弾した。

 国民の反響は大きかった。裁判を担当した検察官に届いたある女性工員の手紙を紹介しよう。それまで首相の襲撃に反感を抱いていた彼女は、若い被告らの「社会に対する立派なお考え」をニュースで聞いて、それまでの誤解を「まことに恥ずかしく」感じたという。そして凶作地出身の身の上を語り「私共世の中から捨てられた様な貧乏人達の為にどれだけ頼母しいお働きであったか」との感慨の念を、わずかばかりの金銭に添えて書き送った。

 人々の不満や絶望の背景には、当時の日本経済の深刻な状況があった。20年に起きた第一次世界大戦後の恐慌以来、日本は……

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Wedge 2022年5月号より
プーチンによる戦争に 世界は決して屈しない
プーチンによる戦争に 世界は決して屈しない

ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。

もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。

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