全米女性の重大関心事である妊娠中絶問題についても、最高裁は近く、中絶を「合憲」としてきた以前の最高裁判断を覆す裁定を下すものとみられ、大騒ぎとなっている。
これは、政治メディア「Politico」がスクープ報道したもので、それによると、最高裁は去る1973年、「妊娠を継続するかどうかに関する女性の決定は、プライバシー権に含まれる」として、合衆国憲法が修正第14条で女性の中絶の権利を保証している、と結論付け、それ以来、南部諸州と一部の保守州をのぞく22州で中絶が認められてきた。しかし、その裁定を同じ最高裁が今回新たに、中絶を禁止ししてきたミシシッピ州の訴えを受け、検討を進めてきた結果、すでに9人の判事による予備審議を踏まえた「多数派意見」として、改めて中絶禁止措置を支持する「第一次草案」を作成したもので、「6月下旬または7月上旬」には正式に最終判断を示す運びとなったという。
そもそも、最高裁の決定は国際常識から言って、あらゆる訴訟を通じた「最終判断」と受け止められ、絶対的権威付けを伴うものである。それを再び覆すこと自体、極めて異例であるだけでなく、女性の権利を直接侵害することになる。全米の女性人権団体はじめ多くの民間組織やグループが、各地でデモ、抗議集会を繰り広げている。
中絶問題については、NBCテレビが去る5月15日、公表した最新世論調査結果によると、国民の66%が「中絶を支持する」と答え、過去最高となった。これに対し、「無条件で禁止」が5%、「条件付きで禁止」が37%だった。女性の権利拡大運動が活発化するにつれて、とくに今世紀に入って以来、全米各地で中絶容認を求める声が高まりつつある。
それにもかかわらず、最高裁があえて国民多数の声を無視してまで「禁止」に傾きつつあること自体、司法の最高組織である最高裁が、保守基盤に支えられた共和党イデオロギーの〝温床〟になりつつあることを示している。
下降する最高裁への信頼、三権分立の危機に
この結果、最高裁に対する国民の信頼度も低下しつつある。
伝統ある世論調査機関「ギャラップ」が毎年実施してきた米国の「組織・団体・機関」に対する信頼度調査結果(2021年度)によると、「最高裁を信頼する」と回答した成人は、全体の36%にとどまり、「中小企業」(70%)、「軍隊」(69%)、「警察」(51%)などよりはるかに下回った。
2000年度の同調査では、「最高裁」に対する信頼度は50%に達していたのと比べ、ここ数年、国民の信頼を失いつつあることを示している。これには特に、トランプ前政権当時、同大統領お気に入りの判事3人が最高裁入りしたことが関係していることは、明白だ。
前政権以来、政党間対立色を濃厚にしてきた行政府、立法府に加え、民心からますます離れつつある最高裁――。合衆国が建国以来、誇ってきた三権分立制度は、今まさに危機に直面しつつあると言ってもいいだろう。