2024年11月23日(土)

バイデンのアメリカ

2022年6月8日

 米政治メディア「The Hill」は先月30日、連邦最高裁が今月中にも、殺傷力の強い銃砲を着衣の下に隠して携行することなどを厳格に規制してきたニューヨーク州法について、「国民の武器所有権を保証した連邦憲法違反」との裁定を下す見通しだ、と報じた。

 「The Hill」は具体的に、以下のような点を明らかにした:

1.ニューヨーク州では1913年の州最高裁判断に基づき、市民が公衆の場で殺傷用銃砲を隠して携行する場合、自らの生命が脅威にさらされていることを示す「十分な理由」に基づく州ライセンス所持が義務付けられていた。それ以来、今日に至るまで、無許可でライフルなどを持ち歩くことは禁止されてきた。

2.ところが、保守派判事6人、リベラル派判事3人で構成される連邦最高裁では、すでにこの問題に関する「予備審議」の段階で、ニューヨーク州現行法は「国民が武器を所有する権利を侵してはならない」と明記した憲法修正第2条に違反する、との主張が多数を占めた。

3.連邦最高裁はこの「予備審議」に基づき、早ければ6月第1週、遅くても月内に正式に開廷される法廷で、ニューヨーク州裁定却下の最終判断を下すとみられる。

4.この結果、銃砲携行に関する厳しい規制が109年ぶりに撤廃されることになり、その影響はニューヨーク州のみならず、同様の規制措置を講じてきた(自由携行が許されてきた南部諸州以外の)他の多くの州にも広がる恐れがある。

5.連邦最高裁は去る2008年の裁定で、一般市民の「家庭内で自衛目的のため」の銃砲所持を合法としてきたが、もし、新たな裁定が下れば、家庭での所持のみならず、危険な銃砲を隠し持って外出も許されることになるため、銃犯罪急増は必至だ。

 この点に関連して、銃砲所持問題に詳しいカリフォルニア州立大学のアダム・ウインクラー法学部教授は「最高裁が具体的にどこまで踏み込んだ判断を下すか不明だが、一点だけはっきりしていることがある。それは、相次ぐ無差別銃撃事件がますます政治問題化する中で、(最高裁の結果が)連邦議会による銃規制法制化のオプションを奪い取ってしまうことになるという事実だ」と厳しい批判のコメントを出している。

 また、デューク大学「銃砲規制法センター」のジョセフ・ブローチャー法学部教授も「これまで、銃砲規制問題をめぐる主たる関心は、連邦議会が、銃砲のタイプも含めどの程度まで所有や携行を容認するかが対象だった。しかし、最高裁が決め打ちすることになれば、銃砲規制のためのいかなる議員立法も無意味なものとなる」と強く警告した。

銃規制だけでない最高裁の政治的な判断

 最高裁が、銃規制強化を求める国民の大半の声や専門家の批判に逆らってまでこうした強気の判断に踏み切ろうとする背景には、前政権当時、トランプ大統領が任命し、上院審議で僅少差により承認されたブレット・カバノー、エイミー・バレット両判事に加え、超保守派で知られるサミュエル・アリト判事ら共和党系判事が、かねてから憲法修正第2条をタテに銃規制に反対態度を貫いてきたことが挙げられる。

 このうち、カバノー、バレット両判事は、全米に絶大な影響力を持つ「全米ライフル協会」(NRA)との近い関係が以前からうわさわれてきた人物だ。

 しかし実は、トランプ前政権以来、公正中立のはずの連邦最高裁が、このように政治色を強めてきたのは、銃規制問題だけに限ったことではない。


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