大幅に減少しいまだに回復しない日本のGDP
こうした異次元の財政出動に対して日本経済はどう反応したのだろうか。なお、ここでは19年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられたことに伴う駆け込み需要反動減を均すため、19年7-9月期と同10-12月期の国内総生産(GDP)の平均値を19年10-12月期のGDPとみなしている。
新型コロナウイルス流行後の日本の実質GDPの推移をみると、依然として足元のGDPは新型コロナウイルス流行直前の19年10-12月期の水準を2%下回っていることが確認できる。
また、もし新型コロナウイルスが蔓延せず、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されることがなく、日本のGDPが平均成長率で成長したと考えれば、22年1-3月期時点では、現実のGDPはトレンドGDPよりも14.5兆円下回っていると推計できる。
つまり、政府の思い切った経済対策にもかかわらず、GDPはいまだにコロナ前を回復できていない。内閣府「経済財政白書」によれば先進国で最も死者数と感染者数の多い米国ではGDPはすでにコロナ前を上回っているのにもかかわらずにだ。
消滅したインバウンド需要
米国入国の際は、ワクチン接種証明書があれば、入国前に改めてPCR検査などを行う必要がなかった。しかし、日本帰国の際には、ワクチンを3回接種していても、出国前72時間以内に検査を受けコロナ陰性証明書の検疫所への提出が義務付けられており、検査費用も嵩み、非常に往生した。
こんな面倒な国に、しかも猛暑にもかかわらずマスクを事実上強制させられる国に、海外からの観光客は来るのだろうかと疑問に思っていたが、日本に向かう機内には多くの外国人が搭乗していたので驚いたものだ。
しかし、日本に入国する段になって分かったのだが、機内にいた多くの外国人はトランジット利用であり、日本に入国することなく別の国に向けてさっさと出立していった。
実際、観光庁によれば、インバウンドの受け入れが部分的に解禁された6月10日から同月末までの入国者数はたったの252人だった。7月1日以降の観光目的の入国希望者数は現時点で計1万4580人とのことだが、1日当たりの入国者数上限の2万人すら大きく下回る状況が続いている。
日本経済が低迷する中にあって地域経済を支えたインバウンド需要は回復せず、せっかくの円安によるインバウンド増の絶好の機会を全く生かし切れていない。
コロナで増えた自殺者数
こうした日本経済の立ち遅れは、私たちの生活を直撃している。
先に見たように、21年の「新型コロナウイルス感染症」は死亡数が1万6756人、人口10万人対死亡率は13.6であるのに対して、自殺者数は2万1007人、同16.8で、新型コロナウイルスによる死因を上回っている。
もちろん、2万人を上回る自殺者のすべてが新型コロナウイルスを原因としたものではもちろんないが、旭川医科大学と北海道大学の研究グループによれば、パンデミック前(2016年1月~2020年3月)と、パンデミック発生後(2020年4月~2021年12月)での自殺率の推移の変化を調べ、パンデミック期間の自殺の「過剰死亡(もし新型コロナウイルスのパンデミックがなければ自殺しなかった可能性のある者の数)」の推定値を算出したところ、パンデミック期間の日本人の自殺者の総数は男性2万2304人、女性1万1836人だったのに対して、「過剰死亡数」は男性1208人、女性で1825人だった。