2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年8月23日

日本とは違うキャプテンの役割

 シーズンの戦い方も日本とはかなり違う。まず、希望者全員を野球部に入れるということはしない。軟式はなく100%硬式だから、全くの初心者は危険ということもあるが、とにかく定員は決まっていて、トライアウト(入団試験)に受からないと入部できない。

 部活の内容だが、日本と違って徹底的に試合を通じて学ぶというスタイルだ。例えば、米国の高校は4年間で、野球好きの高校生は野球部に4年在籍するが、多くの場合1年生は「1年生チーム」に入って、「1年生リーグ」の試合を転戦する。つまり下積みとか球拾いという概念はない。2年生以上は、監督が選考して「1軍(ヴァーシティ)」と「2軍(ジュニア・ヴァーシティ=JV)」に分かれて、それぞれがチームを組んでトーナメント戦に出場する。

 先輩後輩カルチャーもないので、キャプテンの任務は雑用を行なって全員の「縁の下の力持ち」になることだし、特に「部員のモチベーションを高める」ことに専念させられる。従って、上手な選手が必ずしもキャプテンにはならない。一番面倒な雑用、例えば試合後にトンボを引いて球場のグラウンドを整備するというような仕事は、顧問の教諭が率先してやり、手が足りないときはキャプテンがやる。

 そのような姿勢が尊敬され、イザ試合というときは、そのようなリーダーだからこそ、全員が従うというカルチャーを叩き込まれる。学年や教師という「肩書き」の権威により自動的に権力行使が許されるという文化はないし、そうしたものなしにビジネスなど実社会でもチームの成果を最大化させるリーダーシップのあり方を、身をもって教えるのが高校のスポーツだという哲学が浸透している。

 それはともかく、高校の野球部は毎年6月に解散してしまうので、強豪校の参加するトーナメントも、とりあえず郡のチャンピオンを決めるというのがせいぜいで、多くの州では正規の高校野球部の全州チャンピオンを決定する大会はやらない。そうこうするうちに、6月末になってしまうと、米国の高校は学年が終わって長い夏休みに入るので、部活をやろうにも先生は出勤してこない(多くの場合、無給になる)ので延々と遠征したりトーナメント戦などというのは不可能である。

 その代わり、6月から8月には、地域ごとに警察や商工会などが民間の指導者を引っ張ってきて、有望な選手を集めて行う「リージョナル」という野球大会がある。2つから3つの市町村で1チームを結成して、トーナメントをやり、そのうち有力な選手を選抜して、ベストチームを組んで州単位、あるいは東海岸北部とか、中西部など地域単位でのトーナメントを行なったりする。この「リージョナル」とは別の「トラベルチーム」といった組織、あるいは「ルー・ゲーリック・リーグ」など別団体による大会もあったりする。

 一部には、スポンサー企業を募って、こうした各地域の高校レベルのチームが参加しての全国選手権というものもある。だが、これは全国の正規の高校野球部の中で勝ち上がってきたチームによる「全米一」を争うわけではない。

 従って大会としての権威は、リトルの世界大会や大学の全米選手権を100とすれば、10にも満たない。あくまで、夏も野球をやりたい個人が、民間の指導者による夏だけの地域別の選抜チームに入り、その中で地域優勝とか、大会によっては全国優勝をかけて戦うというイメージだ。甲子園と比べると、裾野までの参加人数ということでは、10分の1ぐらいではないかと思われる。


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