部門ではなく、個人が主体的に研究
なんともすごい大学である。さらに、これも日本ではあまり知られていないが、 運営する病院は全米最高水準で、米国人の間では知らぬ者がない程だという。
本書でも紹介されるが、すい臓がんや大腸がんの治療ではベスト・オブ・ザ・ベストの水準だという。 新型コロナに感染し、一時は予断を許さない病状となったドナルド・トランプ氏が命を救われたのは、この病院の医師が治療に中心的な役割を果たしたからであった 。
なぜこの大学で研究が盛んなのか。著者は、どんな学部や部門に所属しているかよりも、個人がどんな研究活動に従事しているかが最も重要視される気風がある点を紹介する。
コロナ追跡サイトの成功は、日頃から公衆衛生に関心の高かった准教授とデータマッピングに関心のあった研究者、この専門分野の異なる二人のタッグが実を結んだからだった。そこには大学が医学と公衆衛生学の両分野を先導し、いずれも抜きんでた実績を持つ基盤があったことも大きく作用しているという。
さらに、追跡サイトが成功した背景には、新型コロナの情報を誰もが求めていたことに加え、「透明性」を重視する現代の風潮にサイトが合致したという面もあるとの指摘は印象的だ。米国の三大ネットワークやCNNなどの主要メディアが追跡サイトの情報を日々引用して報道していることもサイトの信頼性と知名度を高めると同時に、メディア報道の真実性を高める効果も生んでいるという。フェイクニュースが飛び交う時代に透明性が確保された情報を提供できているところに大きな価値があるといえる。
今や公衆衛生の実学を学べる場に
こうした成果によって ジョンズ・ホプキンスには入学志願者が殺到したというくだりも興味深い。これまで医療の世界で比較的地味な分野とみなされていた公衆衛生が、一気に注目を集め、志願者が押し寄せたという。
これは、ある日の疫病学の講義で教官が学生に語った言葉だが、学生にとっては自身が取り組んでいることの社会的、医学的な意義の高さと、公衆衛生や疫病学に携わることへの誇りを再認識するきっかけになった。