パンデミックによる経済・社会的影響は、世界共通の現象であるが、比較的所得水準が高いにもかかわらず、長年経済成長が低迷し、大量の非正規労働が存在するラテンアメリカ地域にとって問題を更に難しくしていると云える。また、民主主義が定着しているが故に、対応策を講ずる上で格差の問題や有権者の不満に政府はより配慮する必要があるというのはその通りであろう。
課題がわかってても解決できない構造的な問題
ラテンアメリカにはこの論説の筆者のように専門的知識もバランス感覚もわきまえた優秀なエコノミストが多数存在しており、また、この論説で論じられているような処方箋が有効であることが分かっているにもかかわらず、状況が改善して来なかった。そこには、政治指導者とその背景となる歴史的、構造的な政治問題があると言わざるを得ないであろう。
一旦、権力の座に就くと政権維持が自己目的化し強権化、独裁化を志向する傾向がしばしばみられる。政府機関を私利私欲のために活用しようとし、汚職がはびこる傾向は政治指導者だけなく、議員や公的機関の幹部の間にも見られる問題である。
また、貧富の格差が拡大するにもかかわらず、富裕層への課税が行われず、種々の租税回避が行われていることも国民の不満の背景となっているであろう。国によっては治安問題が大きな足かせとなり、政府に対する不信の原因ともなっている。従って、マクロ経済政策のみならず、腐敗や汚職対策、公平な課税、治安の改善といった取り組みが政府の信用を取り戻す上では不可欠と云える。
経済成長、財政健全化、格差の是性(少なくとも貧困層の底上げ措置)といった課題は、政治路線の右左を問わず合意できる目標であるはずであるが、歴史的な経緯や背景もあり政党やその主張が過度にイデオロギー化しているとの印象もある。フランスのマクロンのように右でも左でもないという立場で政策を主張する政治家や政党がラテンアメリカにも出てきて良いのではないかとも思われる。
不平等等の国民の不満に応えて登場した政権がチリのボリッチであり、また、コロンビアのペトロである。彼らの政策が、より現実的で社会的・政治的に持続可能なものとなり、格差是正と共に経済成長や財政健全化も実現するという難しいパズルを解くことにつながることを期待したい。