ロシアからの供給量が減少する中で、米国などからのLNG輸入量が大きく増えており、EUの輸入に占める現在のロシアのシェアは昨年の4分の1以下、10%を割り込むまで低下している(図-3)。天然ガスの不需要期の夏場にEU諸国は天然ガスの備蓄量を大きく増やした。
EU全体ではフル能力の88%、年間使用量の3.1カ月分を既に備蓄している。ドイツは92%、3カ月分を貯めた。ただ、冬場の需要期を迎えるに際しては対策が必要だ。
ドイツは、浮きLNG受入設備のさらなる確保に乗り出す一方、石炭火力発電所の再開に踏み切ることを決めた。さらに、船上に設置されている移動式石油火力発電設備も手当てし、短期間で利用可能な状態にしている。
9月下旬には、ショルツ首相が原油とLNG確保のため、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。ドイツは、ロシアのウクライナ侵略前までは、カタールとサウジアラビアの人権問題を非難しており、ドイツの豹変ぶりに対し冷ややかな報道も見られた。結果、UAEからLNG供給の約束を取り付けただけに終わった。
ドイツは供給力の手当てに加え、価格抑制策の強化も打ち出した。9月29日、ショルツ首相は、エネルギー価格抑制に2000億ユーロ(約28兆円)を投じると発表した。具体策は10月に発表される予定だが、電気、ガス料金に補助金が投入されることに加え、税の減免が予定されている。
欧州委員会は、ドイツほどの補助金を出せない財政状況のEU加盟国も多いので公正な競争の観点から慎重に審査するとしている。いずれにせよ、ドイツが50年に亙り享受してきた競争力のある天然ガスの時代は終わりを告げた。競争力のある化石燃料にドイツ同様に依存してきた日本のエネルギー価格もこれからさらに上昇する。
安い化石燃料時代の終焉
日本、ドイツ、EUの一次エネルギー(電気、ガソリンなどに加工される前のエネルギー)供給(図-4)を見ると、ドイツはEU27カ国平均よりも化石燃料依存度が高い。日本はそのドイツよりも依存度が高く、石油・石炭・天然ガス(LNG)が85%を供給している。
日本のエネルギー供給の特徴は、価格競争力がある輸入石炭への依存度が高いことだ。1973年秋のオイルショックまで石油に大きく依存していた日本の産業界は、石油価格の高騰を受け供給国が豪州、米国、カナダ、ロシアなどに分散され、価格が相対的に安い石炭への転換を進めた。
今、石炭火力は発電量の約3割を担っている。セメント、紙パルプなどエネルギー多消費型産業の石炭への依存も高まった。しかし、2010年代半ばからの脱炭素の流れにより炭鉱への投融資額が減少し増産が困難な状況にある中で、欧州諸国はロシア炭の購入を止め、豪州など他供給国への依存を高めた。供給増が困難な中での需要増は石炭価格を史上最高値に引き上げ、日本の産業と家庭に電気料金上昇を引き起こした。