2024年4月26日(金)

World Energy Watch

2022年10月4日

 2021年1月から今年8月までの石油、石炭、LNGによる発電コストを図-5に示したが、この間円安の影響もあり、石油価格は2.9倍、石炭は6.3倍、LNGは3.1倍に上昇している。今まで安く競争力があった石炭価格の上昇が際立っており、石炭利用が多い日本の電力会社をはじめとする企業は苦境に立たされることになった。

電気料金の上昇を防ぐ手立ては

 自由化されている電力小売市場だが、燃料費上昇分を小売事業者は吸収できないので、上昇分を燃料費調整制度により電気料金に反映している。例えば、東京電力の場合には12年1月から3月の石油、石炭、LNGの通関統計に基づく輸入価格とその時点での発電構成比に基づき、基準燃料価格は原油換算1キロリットル当たり4万4200円と定められている。3カ月平均の化石燃料価格が変動すれば、電気料金は2カ月後にプラスあるいはマイナスの調整を受けることになる。

 今年8月までの通関統計が発表されており、11月の燃料費調整額が発表されているが、例えば、ビル、工場などの大口需要家向けの東京電力の調整額は1キロワット時(kWh)当たり9.26円から9.39円。21年1月の調整額はマイナス4.95円から5.02円だったので、この間14.21円から14.41円上昇したことになる。

 製造業が支払っている燃料・電力費と人件費の比率を図-6に示したが、エネルギー価格上昇前でも多くの産業が多額の燃料・電力費を支出していた。既に、エネルギー価格は大きく上昇しており、収益にも影響を与えている。

 家庭、小規模の商店などに供給される電気の11月の調整額は9.72円。調整額に上限が設定されている特定小売り供給では上限値の5.13円だった。21年1月の調整額はマイナス5.2円だったので、最大14.92円の上昇になる。

 この燃料費調整制度は今の電源構成を反映しておらず、多くの電力会社では調整額が実態より低く計算され、燃料費の回収ができない状態になっているとみられる。そのため、制度の見直しが行われており、電気料金は今後さらに上昇すると予想される。

 多くの電力小売業者は、大手電力の計算を利用しているため、小売業者を問わず上昇するだろう。政府が電気料金抑制に乗り出す必要がある状況だが、抜本的な解決策も打ち出す必要がある。

安定供給、競争力のある価格、温暖化対策実現へ

 今まで競争力のあるロシアの天然ガスに依存していたドイツのように、日本も競争力のある海外炭に依存していたが、今後安定的に競争力のあるエネルギーを確保できるか不透明な状況になった。政府が計画している電気料金抑制策には多額の資金が必要とされるので、いつまでも続けることはできないだろう。

 欧州は再エネと原子力新設に舵を切った。脱原発の期限を延長したドイツも、フランスが新設する原発の電気を脱原発後も利用するだろう。送電線が他国と連携していない日本は、国内で安定供給、価格競争力、温暖化対策を完結させる必要がある。

 日本は既存原発の再稼働を急ぐ一方、自給率を上げ、安定的なコストでの発電を実現するため原発の新増設も急ぐ必要がある。欧米が力を注ぐ小型モジュール炉の建設も必要だが、日本での認可と建設のスピードを考えると先進の大型炉の建設も同時に進める必要がありそうだ。中長期を見据えた具体的な対策が急がれる。

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