そのため、平均的に所得の高い地域では大学進学率が高くなると考えられる。実際、日本の都道府県間で所得格差は存在しており、それと人口規模との関係を描いたのが図3である。
図3では、横軸に20年の15歳以上人口の自然対数値を、縦軸に納税義務者一人当たりの課税対象所得額(単位:千円)をとっている。ここでも都道府県別の数字を散布図にしている。
点線で描いた近似直線の傾きが正の値になっていることからも分かるように、人口規模の大きな都道府県において、平均所得は高くなっている。したがって、大都市部ほど金銭的余裕があり、子供が大学進学を希望すればそれが可能な家計が多いと考えられる。もちろん、逆の因果関係もあり得て、何らかの理由で大学に進学する人が多いために所得が高くなっており、そうした高い所得が人の集中をもたらしている可能性も否定はできない。
ここでは、人口規模の大きな都道府県で所得が高く、大学進学率も高くなっている、という関係がみられることだけを指摘し、所得格差が大学進学率の格差を生んでいる可能性を述べるにとどめる。
大学偏在の是正で解決できるのか
また、大学そのものの偏在の影響もありうる。よく知られているように、大学所在地は大都市に偏っている。文部科学省の「魅力ある地方大学の実現へ向けて-参考資料集」によると、大学進学希望者数に対する大学入学定員数の比率(=大学入学定員数÷大学進学希望者数)は都道府県間で大きく異なっている。
例えば、入学定員数が相対的に多い東京都や京都府では1.6~1.8で、相対的に少ない長野県や三重県では0.36である。全体的には、いわゆる大都市を抱える都道府県で、大学入学定員数の比率は大きく、地方で小さくなっている。
地元に大学が無く、よその地域に進学せねばならない場合、進学の費用は高くなる。すると、大学の少ない地域では大学進学の費用が高く、大学進学率は低くなると考えられる。
こうした大学の偏在に関係する政策として、18年に制定された「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による 若者の修学及び就業の促進に関する法律」があげられる。その第13条では「特定地域内の大学等の学生の収容定員の抑制」として、東京23区内の大学の学部などの収容定員を増加させてはならないとしている。
しかし、文部科学省の「魅力ある地方大学の実現へ向けて-参考資料集」で報告されている私立大学の地域別入学定員充足率をみると、21年度にはいわゆる地方で充足率は軒並み100%未満で、中国・四国地方では90%を下回っている。一方、大都市を抱える都道府県では多くが100%を超えている。このことは、単に地方に大学が不足しているわけではなく、高校生が魅力を感じ、進学先として選ぶ大学が大都市に偏っていることを示している。
そのため、東京の大学の収容定員に制限をかけても地方の大学への進学が増えるとは限らず、他の大都市の大学に進学するようになる可能性が高い。何より、一部の学生にとっては東京の大学への進学の機会が奪われることになりかねない。これはその制限が導入された世代と他の世代との間での不公平を生じさせる。
若い世代につけを払わせるような政策は現に慎まねばならない。むしろ、地方の大学を支援し、進学先として選ばれるような大学を増やす政策を行うべきであろう。