2024年4月19日(金)

都市vs地方 

2022年10月7日

大学進学による賃金向上の地域差

 次に、高校生の大学進学意欲を左右する要因を考えてみよう。まず、大学進学を決めるうえで重要なのが、大学進学から得られる利益への期待である。

 その地域間格差は、もちろん地域の産業構造により左右されるが、地方都市と大都市との格差は集積の経済(人口集中がもたらすメリット)にも大きく依存する。ヘブライ大学のゴールド教授による米国の統計「National Longitudinal Survey of Youth」を用いた研究によると、都市部に住むことで賃金が上昇する効果はホワイトカラー労働者については観察されるものの、ブルーカラー労働者については観察されなかった。

 このことは、都市部の方がホワイトカラー労働者として働く誘因が強いことを示しており、大学進学の動機を強める効果を持つ。さらに、大都市の職業や大学の多様性により、各人の好みや価値観に合った進学先が見つかりやすい効果も考えられる。

 このように、金銭面、それ以外の面の両方で、大都市は高校生の大学進学意欲を高める可能性がある。

 こうした集積の経済の効果が学歴間異なるのは、大学卒業後にも観察される。ノルウェー科学工業大学のカールセン教授らの研究によると、1週間当たりの賃金でみると首都オスロにいることの賃金プレミアムは最終学歴が義務教育修了の人については4%であるのに対して、大学で1年以上学んだ人については8.2%と4ポイント以上の差がある。これに、場所別の就業年数を加味した首都オスロの賃金プレミアムは、最終学歴が義務教育修了の人は7%であるのに対して、大学で1年以上学んだ人については14%と7ポイントの差とさらに拡大する。同様の結果がオスロ以外の大都市についても観察される。

 このことは、オスロをはじめとする大都市で働くことのメリットが高学歴の人ほど大きいことを示している。この結果は大卒人材の偏在について以下のような意義を持つ。

 大学を卒業した人が、卒業した場所にとどまって就職するのか、それともよそで就職するのかを決めるに際して、将来の収入を考慮するならば、大都市で働き続けることに魅力を感じる。

 そのため、もともと偏在していた大学進学者が、卒業後の就職時、また、その後の転職時に、さらに大都市に引き寄せられてしまうのである。

 以上で取り上げた大学進学における地域差に対して、どのような政策介入が正当化できるか、また、効果的であるかは必ずしも明らかではない。しかし、若い世代の人生を左右しかねない事柄への介入に際して、地域差の原因となりうるものを網羅的に把握することは極めて重要である。

 それをせずに、恣意的に原因を取り上げて介入しても、事態の改善は望めないし、新たな問題を生じさせてしまう。慎重な議論が必要であろう。

 
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