2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2022年10月18日

 そこで、最大の問題となってくるのが、米国側の実際の対応だ。この点で、保守系雑誌「National Review」の問題提起には重要な意味が込められている。

 同誌は、次にように論じている:

 「ロシア軍によるウクライナ領土ないしは領海における核使用は、許すべからざる蛮行であり、戦争犯罪だ。それは、ロシア国家に対しあらゆる深刻な結果をもたらす制裁が求められる。しかし、だからといって、米軍による核報復がそのうちの一つになることはなく、また、そうあるべきではない」

 「ここで明確にしておく必要がある。米国はウクライナ支援を望むとしても、そもそも、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではなく、従って、われわれはウクライナ防衛を義務付けられてはいない。ましてや、ウクライナは米国の『核の傘』の対象外にある。ウクライナに対する核攻撃は米国に対する核攻撃と同じではなく、同一視されるべきではない」

 「対露報復としては、核兵器に頼らずしてロシアに目に見えた打撃を与える選択肢がいくつもある。例えば、経済・産業を麻痺させるパワー・グリッド攻撃はそのひとつであり、そうなれば、ロシアは面目を失ってしまうだろう。いずれにしても、わが国としては、ウクライナ戦争の今後を大いに心配してはいるが、ウクライナがいくつかの都市を奪われることになったとしても、さほど気にしてはいない」

 上記のような主張は、おそらく米国民の大半が抱いている率直な気持ちを代弁しているものと思われる。

 それを要約すると、①米国民はウクライナ戦争に重大な関心を抱いてはいるが、自国が直接巻き込まれることを決して望んでいない、②ロシアがウクライナで核使用したとしても、米軍による核報復は、ひいては米本土が核攻撃にさらされる危険があるので、断固反対する、③従って、ロシアの対ウクライナ核攻撃に対する米側の対応は、米露間の核戦争に至らない他の手段によるべきである――ということに尽きる。

多くの専門家が「核報復は避けるべき」との姿勢

 ところが、バイデン大統領の「アルマゲドン」発言は明らかに、こうした慎重意見に対する配慮を欠くものだった。

 なぜなら、バイデン大統領は、ロシア軍がウクライナ戦争で限定的戦術核使用すれば、米側が自動的に核報復に出ることを前提とするかのようなシナリオを描き、その後は、米露両国による核戦争にエスカレートして、最後は人類の破滅を招くことを警告したからである。

 しかし、現実には、「National Review」が指摘した通り、米国民の大多数は、他国間の戦争で、たとえ核兵器が使用されたとしても、米国が核戦争に巻き込まれる事態になることを望んでおらず、従って米政府としても簡単に、核報復には踏み切りにくい。

 この点、長年、核戦略問題に精通し上院軍事委員会の重鎮として活躍してきたサム・ナン元民主党議員は、「The Atlantic」誌の中で、「ロシアがウクライナの戦場で核兵器を使用した場合でも、米側は厳格に通常兵器に限定して報復すべきである。たとえば、もし、ロシア海軍が艦船から核巡航ミサイルを発射した場合、米軍はただちに当該艦船を撃沈することが望ましい」として、核報復は回避すべきことを論じている。


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