9月28日付ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)社説が、9 月末の米・太平洋島嶼国首脳会議につき、米国の島嶼国への無関心が中国の進出を許したが、米国は同地域への再関与のために従前以上の努力をしていると述べている。
このWSJの社説は、①今回の首脳会議の開催を歓迎し、②中国がこの地域で優勢になれば、米国の活動は複雑化し、グアムの米軍基地は脆弱になる、③漁業、気候変動、教育、保健など島嶼国の重要な関心事項につき協力していくべきだ、④マーシャル諸島では 1940~50 年代の核実験による汚染の除去を一層進めるべきだ(特にルニット島放射性廃棄物処分場)、⑤米国の島嶼国協力は超党派でやるべきだ、と述べる。
なお、ルニット島は、マーシャル諸島の島の1つで、46年から58年の間に行われた核実験に係る放射性廃棄物処分場のサイトで、経年や海面上昇によるコンクリート・ドームの亀裂や漏洩が懸念されている。共同宣言でも米国はこれらの問題に対応していくことを確認した。
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9月29日、ワシントンでバイデン大統領も出席して、初めての米・太平洋島嶼国首脳会議が開催された。4月に中国と安全保障協定を締結し対中傾斜を強めるソロモン諸島のソガバレ等15カ国の首脳らが出席した。
参加国は、「米太平洋パートナーシップ宣言」を発表し、「悪化する気候変動と益々複雑になる地政学環境に直面し、今日の課題に対処するために真のパートナーシップに基づき協力することに改めてコミットする」、「島嶼国指導者は、米国が関与を強化するのを歓迎する」と宣言した。宣言に署名した国は、米国の他、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、仏領ポリネシア、ナウル、ニューカレドニア、パラオ、パプアニューギニア(PNG)、マーシャル諸島、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツだった。キリバスは会議に欠席した。
首脳の多くが国連総会のためニューヨークに来ていたことも幸いだった。なお会議前日の9月28日、米国は「米国の太平洋パートナーシップ戦略」と題する政策文書を発表した。
今回の首脳会議によって、中国の進出に対する米国の対応体制が取り敢えず構築できた。その意味で今回の首脳会議の意義は大きい。
米国は数カ月という短期間に会議を準備したが、4月の中国・ソロモン諸島安全保障協定の締結に、米国が大きな危機感を抱いたことが背景にある。11項目にわたる共同宣言は、島嶼国の最大の関心事である気候変動の問題で協力を強調するなど、低姿勢で、丁寧に書かれている。
従来の米国や豪州の島嶼国対応は時として島嶼国により高圧的だと受け取られたことがあったという。それを意識し、島嶼国の意見に耳を傾けながら協力を進めたいとの姿勢が読み取れる。
分断・個別撃破の中国に米国は地域主義重視で対抗
今後、米国は今回約束した具体的な資金援助(向こう10 年間で8.1億ドル、内1.3億ドルが気候変動関連)、デジタル、サイバー、インフラ、漁業などの協力を確実に実行していくことが重要である。また、日本や豪州、ニュージーランド、英国、カナダ等も支援を増やし、実施することが重要だ。また、従来日本の首相の大洋州訪問は、他のニーズもあり精々年に一度位の頻度でしか行われていないが、出来る限りもっと頻繁に訪問することが望ましい。
地域主義重視の米国の姿勢は、賢明だ。島嶼国の間には PIF(太平洋島嶼国フォーラム)を中心とする強い連帯意識がある。
中国はいわば分断・個別撃破方式で進出しようとしている。ニウエなど米国が未承認の国も今回の会議に招待されたことは、地域主義に基づく島嶼国側の要望だったようだ。そして、米国は、この機会にニウエを承認した。
ソロモン諸島の問題が解決した訳ではないが、今回の会議にソロモン諸島のソガバレ首相が出席したことは取り敢えず良かった。PIFの仲間達がソガバレに働きかけたとしても驚かないし、ソガバレも地域主義から脱落、孤立することは避けたかったのではないか。更にソガバレは宣言案に中国との安保協定への言及、島嶼国は安保問題については他の島嶼国と協議すべきとの言及、台湾への言及があり、それを理由に宣言には署名できないと他の島嶼国に伝えて来たと報道された。
これらの文言が削除されたのでソガバレも署名したと言われる。今後ソロモン諸島に加えて、キリバスにも注意すべきだ。今回不参加のキリバスは、7月にPIF脱退を通告し、中国との関係を緊密にしており、国内では首相と裁判所が対立し民主主義の危機にもなっているといわれる。米国は同国に大使館開設の意向を示している。
豪州のアルバニージー政権は、島嶼国対応に良い動きを示しているように見える。外相のウオンも政権発足早々フィジーに飛び、6月にはソロモン諸島に行く等素早い動きを見せた。6日にはソガバレがキャンベラを訪問し、アルバニージーと会談した。