2024年4月20日(土)

世界の記述

2022年11月22日

 経済評論家の加谷珪一氏によると、グローバル産業である自動車業界は、国内事情がどうあれ、価格が決定されることを「ITmedia」(20年2月18日配信)に書いている。

 「トヨタ自動車の1台あたりの販売価格は、95年には225万円だったが、18年は327万円にまで上昇した。自動車の価格はデフレなどお構いなしに上がっており、もはや平均的な年収の労働者では簡単には買えない水準になっている。一方、諸外国では自動車価格も上がったが、それ以上に賃金も上がっているので、自動車購入の負担はむしろ低下している」

 全国軽自動車協会連合会のデータによると、2000年の軽自動車の保有率は、全自動車比で27%だったのに対し、2020年には39・6%にまで増加している。一方、「カー・セールス・ベース」によると、欧州ではトヨタの高級自動車「レクサス」の販売台数が2000年には約1万7000台だったが、2020年には約4万7000台にまで増えている。

 円に対するドル・ユーロ高と、各国の賃金上昇もあり、外国人が日本製品を爆買いできる事実というのは、それを開発し、生産する日本人にとっては、本来、残酷な話にしか聞こえない。しかし欧米も、インフレ時代を長年、経験し続け、苦労してきたことを筆者は知っている。日本も同じ状況を乗り越え、新たな時代に挑まざるを得ないのではないだろうか。

厳しさだけが残った日本

 なぜ日本人は、高品質な商品を開発し、製造する能力を持ちつつも、外国人よりも低い賃金で、低い生活水準を送らなければならないのか。ここには大きな疑問が湧いてくるが、原因は「デフレ慣れ」したことが影響しているように思える。

 小売業に勤務する田湯正敏さん(仮名=50歳)は、「技術でも何でも海外に流出し、中国に負けてしまう。デフレとも無関係ではないのでは」と指摘する。都内で羽振りの良い外国人たちを目にするたびに、首を傾げることがあるようだった。

 「日本人は最近、旅行に行くなら韓国ぐらい。外国人を見ていると、一時前の日本人です。個人的な不満を言っても始まらないが、やっぱり政治がおかしいと思う。総理大臣は、誰がなっても同じ。悪くなることはあっても、良くなることがない。生きがいを見出せない世の中になってしまった。朝から晩まで仕事して、また翌日行く繰り返し。余力を持てる給料体系にもなっていない」

 つまり、努力しても経済的な豊かさを確保できないということだ。現在の日本に不満を抱く国民が出てくることも当然だろう。長野県で看護師を務める小山直美さん(仮名=38歳)も、同じように根底には政治の問題があるのではないかと呟いていた。

 「政治家が頼りないと思う。政治家の子に生まれた議員たちは、庶民と違って考え方がずれている気もします。私は18年間、仕事をしていて、給料も微々たる額しか上がっていない。頑張れとか、一生懸命やれば何とかなるとか、厳しさだけが残った国のように思います」

 そんな中、小山さんは、外国人を見ていると羨ましいという。「海外に比べれば、日本は物価も安い国で、昔に比べたら、落ちぶれた国と思われているのかもしれません。それが本当に嫌です」

 高品質のモノやサービスの裏には、日本人労働者の勤勉、正確性、こだわりなどがあり、同時に多大な努力と膨大な労働時間がある。こうして生まれたモノやサービスが海外の人々に重宝されることはありがたいが、日本人自身がそれを消費できない現状は問題だろう。このままでは、国民のモチベーションや生きる糧がますます失われてしまいかねない。


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