単に日本好きという以上に、台湾における深いレベルでの日本文化の浸透も、日本旅行を好む心の底流にありそうだ。日本は台湾を統治していたので、80代以上の高齢者で台湾本島出身者は日本語教育を受けている。その子どもの中高年も孫の20~30代の若者も、日本語を話す祖父母を見て育った。
筆者の友人の食堂経営者は60代で、日本語はできないが酔うと必ず藤山一郎の「酒は涙か溜息か」(1931年)を歌う。若者の場合、アニメや漫画など日本文化の影響も絶大だ。
元商社マンで、日台交流団体の理事を務める、台湾在住14年の山本幸男さん(74歳)によると、台湾では、台湾人の短歌や俳句の団体がある。日本の演歌を楽しむ台湾人のカラオケサークルもあり、歌に合わせて和服姿で踊りも楽しむなど、本格派だそうだ。
長い日台交流史を背景に、台湾人の中には、日本に地縁血縁を築いている人々も少なくない。山本さんは「例えば長崎大学の医学部を出て、離島で医師をしている台湾人がいる。台湾人は、東京や大阪だけでなく日本の隅々にネットワークを築いている」と話す。少なくない台湾人が親類縁者に会うため日本を訪れているという。
日本観光選ぶ4つの要因
台湾人の日本好きや日本文化の浸透は常識にしても、日本観光の熱愛ぶりについては、台湾人自身もいぶかっている。台湾紙・聨合報は、非営利の台湾最大の電子掲示板「PTT」の書き込みを分析し、台湾人の日本観光好きの理由として「距離の近さ、治安の良さ、食べ物のおいしさ、清潔さ」の4つを挙げた。
PTTのある投稿者は「海外旅行といえば、大多数の台湾人は少しもためらわず日本を選ぶ」とした上「日本旅行に向かう機中やJRの列車の中、すし店のカウンターで、知り合いの台湾人に出くわす確率は、香港や韓国、東南アジア、欧米をはるかに上回る」と書いた。それだけ多くの台湾人が日本に出かけているということだろう。
他の投稿者たちも「文化財や遺跡の保護状態が良い」、「自然や文化、風景が香港、韓国より良い」、「漢字があるので、英語ができない台湾人でも理解できる」などと次々に書き込んだ。「アジア文明のトップ。アジアで日本に行かずにどこに行くのか」など、日本人からみて過大評価とも思える指摘もあった。
別のメディアの三立新聞網も同様の分析記事を掲載し、PTTの「台湾人はどうしてこんなに日本に行きたがるのか」というスレッドを紹介。ある投稿者は「日本の食べ物は、焼肉もすしもラーメンも台湾にすべてある」としながら「街路の清潔さなど、それらを取り巻く環境だけはコピーできない」と指摘。「日本は電車一つとっても台湾に勝る。台湾では台北を除けば、多くの県市は地下鉄や電車がないか、あっても少ない」と書いた。