この分析は、4月以降の菅野の活躍と一致して大変面白い。杉内との成績比較では、菅野に軍配が上がる。菅野は6月17日現在、7勝2敗と順当に勝ち星を稼いでいる。制球力が高く、基本的に走者を出さず、出してもここぞというときに要所を締める。悪いときでも修正できる投手であることが伺える。投手というのは、同じ体調だと思っても、日によっていいボールが違うのである。その日、何がよいボールなのかを見極め、組み立てを変える。これが修正である。見極めができるかは、頭の良さにかかわる。よい投手は頭がよいというのが筆者の持論である。菅野が修正できる投手であることは、防御率も安定していることに現れる。
一方、杉内は5月に低迷し、6月に入って復活の兆しがでてきた。5勝3敗と巻き返している。5月は、好投していても、四球などをきっかけに崩れることが多く、WHIP、ERCが悪い。ここぞという時に点を取られてしまっているのである。防御率も3点台と大きく後退したが、現在は2点台になった。
大リーグで通用する菅野の投球術!
セイバーメトリクスは、このように選手の潜在能力を視覚化し、その後の活躍を予測するのに役に立つのである。
さらに菅野のすごさは、別のデータが物語る。フェアプレイ・データ(https://www.facebook.com/fairplaydata)の分析によると、菅野の平均球速の分布が140キロ台後半を頂点に一つの山(正規分布)になっているのに対し、杉内の球速は140キロ台と130キロ台に頂点がある二つの山になっている。菅野の球速は安定し、杉内は、球種によって球速差がでて見分けられる可能性があることを示す。
もう一つは、菅野の投球の組み立てのすばらしさ。直球が4割と最も多いが、右打者の場合、インコースへのツーシーム(シュート)とアウトコースへのカットボール、スライダーをうまく組み合わせて投げている。同社の石橋秀幸社長は「広島時代の黒田博樹投手(ニューヨーク・ヤンキース)とそっくりだ」と指摘する。
黒田投手は、大リーグでこの組み立てを大幅に変えて、大リーグに適応した。日本時代と変わったのは、右打者の場合、カットボールやスライダーを打者にあてるようにインコースのストライクゾーンに投げ、ツーシーム(シュート)をアウトコースからベースをかすめて、ストライクを取る投球術。左打者では、ツーシームをインコースに投げ、スライダーをアウトコースに投げる組み立てである。ともに打者には、ボール球と見せかけて、実際はストライクを取りにいく戦略的な投球だ。インコースは「フロントドア」、アウトコースは「バックドア」と呼ばれ、黒田投手自身、「フロントドアはメジャーに来てから習得し、今に至るまで最大の武器になっているボール」と語っている。
コントロールのよい黒田投手だからできた技であるが、同じように適応力があり、コントロールのよい菅野投手も将来的には、大リーグで通用するかもしれないと思わせる。こうしたセイバーメトリクスによる分析は、打者でも同様で興味深いデータを提供してくれる。機会があれば、詳細はいずれ紹介したい。
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