2024年11月22日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年1月23日

国家の存亡にかかわるという「危機感」

 ただし、明治維新や大化の改新などの〝革命〟のきっかけとして共通しているのは「外圧」であり、国家の存亡にかかわるという「危機感」である。

 翻って現代日本はどうか。大企業からすると、ベンチャーやスタートアップ企業との人材獲得競争は激化しており、一種の「外圧」とみることができる。また、企業の存亡にかかわる「危機感」から、初任給の大幅増額や地方にいながら働ける制度へと舵を切った企業もある。これからもさまざまな分野・業種で、外国企業からの挑戦を受けることにもなるであろう。まさに日本企業は幕末の混乱期と近似した状況に置かれているといえるだろう。

 その中で大切なことは、成果を急ぐあまり、中途半端な理解のまま、米国流経営や流行のカタカナ語などに踊らされないことだ。GAFA創業者らのような〝突き抜けた〟人材は否定しないが、仮に日本でそうした人材を量産したとしても、結局は米国やインド、シンガポールなどの国の後塵を拝することになるのではないか。

 確かに明治維新によって、日本は積極的に西洋文明を取り入れた。ただ、西郷隆盛が『南洲翁遺訓』の中でくどいほど強調したのは、新しい価値観、すなわち西洋文明を受け入れるためには、日本人は「軸」を持たねばならないということだった。「軸」とは、物事を取捨選択する時の基準である。

 西郷は決して西洋文明を否定したわけではない。「新しい」ことを売りにする文明が押し寄せてきた際、何が必要で何を拒絶すべきなのか、自分の中の「ものさし」で決めるべきということだ。当時の日本人にはそれがなく、ただ妄信しているだけになっていないか、というのが西郷の憂慮であった。それは現代にも通ずることだ。

 幕末維新期同様、今後日本でも旧来の価値観が急速に瓦解する可能性もある。そうした中で、日本企業の強みを発揮しながら〝突き抜けた〟人材を生かしていくために必要なこととは何か。日本企業はこれまで以上に歴史からも学び、新たな未来を切り拓いていくことが求められている。(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、野川隆輝)

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 イノベーション─―。全36頁に及ぶ2022年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の本文中で、22回も用いられたのがこの言葉だ。
 「新しくする」という意味のラテン語「innovare」が語源であり、提唱者である経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが「馬車を何台つないでも汽車にはならない」という名言を残したことからも、新しいものを生み出すことや、既存のものをより良いものにすることだといえる。
 「革新」や「新機軸」と訳されるイノベーションを創出するには、前例踏襲や固定観念に捉われない姿勢が重要だ。時には慣例からの逸脱や成功確率が低いことに挑戦する勇気も必要だろう。平等主義や横並び意識の強い日本社会ではしばしば、そんな人材を“尖った人”と表現する。この言葉には、均一的で協調性がある人材を礼賛すると同時に、それに当てはまらない人材を揶揄する響きが感じられるが、果たしてそうなのか。
 “尖る”という表現を、「得意」分野を持つことと、「特異」な発想ができることという“トクイ”に換言すれば、そうした人材を適材適所に配置し、トクイを生かすことこそが、イノベーションを生む原動力であり、今の日本に求められていることではないか。
 編集部は今回、得意なことや特異、あるいはユニークな発想を突き詰め努力を重ねた人たちを取材した。また、イノベーションの創出に向けて新たな挑戦を始めた「企業」の取り組みや技術を熟知する「経営者」の立場から見た日本企業と人材育成の課題、打開策にも焦点を当てた。さらに、歴史から日本企業が学ぶべきことや組織の中からいかにして活躍できる人材を発掘するか、日本の教育や産官学連携に必要なことなどについて、揺るぎない信念を持つ「研究者」たちに大いに語ってもらった。
 多くの日本人や日本企業が望む「安定」と「成功」。だが、これらは挑戦し、「不安定」や「失敗」を繰り返すからこそ得られる果実である。次頁から“日本流”でイノベーションを生み出すためのヒントを提示していきたい。
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