2024年11月22日(金)

Wedge OPINION

2023年1月28日

 国家評議会はウクライナと和平協定を結び、91年の国境を認め、プーチンの戦争による損害を正当に補償する。また、旧ソ連諸国の親プーチン派に対する支援を停止するなど、ロシア内外でプーチン政権の帝国主義的な政策を正式に否定する。そして、ロシアが長年続けてきた西側との対立を終わらせ、代わりに平和、パートナーシップ、欧州・大西洋制度への統合に基づく外交政策に移行するとしている。

ユーラシア地政学上の重要な展開

 この論考の重要な点はロシアが民主化する時、直面する根本的な問題を抉り出し、ユーラシアの地政学的見地からロシアにとって正しい方向性を示そうとしていることだ。どういうことか?

 仮にロシアが今回のウクライナ侵攻を契機にして、内部的な大混乱に陥れば、隣接する大国中国や多くの民族共和国などが自己利益推進のため行動を起こすことは目に見えている。周知の通り、中国は「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」と理解している。

 中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねないのだ。多くの非スラブ自治共和国もその混乱に乗ずる可能性がある。そうなると、ユーラシア全体が名状しがたい大混乱に陥る危険がある。

 この論文はその危険を完全に察知していて、正直にこう論じている。「プーチンの軍事的敗北の後、ロシアは中国の属国となるのか、それともヨーロッパとの再統合を目指すのかを選ばなければならない」。そして「大多数のロシア人にとって、平和、自由、繁栄を選択することは自明である」と。

 そして、民主化するロシアはウクライナと共にヨーロッパの一部となって平和と自由と繁栄を選択するべきだと明快に述べている。これは91年のソ連崩壊後の国境が国際的に承認されていることを確認しつつ、ロシアと云う国全体の地理的継続性を維持し、それを欧州社会に統合し、民主的繁栄を確保する姿勢を表したものだ。ユーラシア地政学上の非常に重要な展開を目指している。

 このフォーリン・アフェアーズ誌の論考が論じている「限定的な中央集権と強力な地方政府」の具体的内容はこれから議論されて行くだろう。しかし、非常に重要なことはこの提案が、ロシアの現在の地理的一体性を維持しながら民主化し欧州社会に統合して行くと云う方向性を明白に打ち出していることだ。

 二人の著者は問題の本質を正しく理解し、国としての一体性を堅持して民主化を図ろうとしていることだけは明らかだ。要するに、ロシア人は自分たちが正しく行動しなければ、中国がユーラシアで勢力を伸ばす可能性があることを明確に意識しているのだ。

ロシアの民主化が生み出す地政学上の地殻変動

 まず何よりも、ロシアが民主主義の価値体系の下で行動し始めれば、北大西洋条約機構(NATO)との関係は根本的に変化する。ロシアは極東ロシアを含めて欧州民主主義圏の一員となる。

 このようにして、ロシアはNATOの敵対国でなくなるので在欧米軍などはアジア太平洋地域に移動できるようになるだろう。西側の安全保障上の基本構造が変わることになる。日本自体の安全保障の上でも大きな前向きの展開だ。

 その上、民主化するロシアは中露専制強硬同盟から離脱するので、中国は地球上で唯一の強硬専制国家と云うことになる。国連の安保理事会でも常任理事国ロシアはその行動を一変させるので、国際政治の議論と雰囲気は一変する。さらに多くの変化が生まれてくるに違いない。 地政学的には殆ど歴史的な地殻変動と云うべき事態が生まれてくる。


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