M&M'sといえば、米国人に最も親しまれている菓子ブランドの一つといって良いだろう。米国ではキャンデーと呼ぶが、要するにチョコを中に入れた糖衣錠といったシンプルな作りで子どもから大人まで幅広く愛されている。元々は第二次世界大戦に従軍する兵士向けの菓子だったが、戦後は世界中に広まった。
人気の秘密は1粒ごとのカラフルな色で、時代によりそのバリエーションを変化させながら、現在に至っている。特に1990年代以降は、各色のキャンデーをキャラクター化して、CMだけでなく映画での展開も行われており、そのカラフルなイメージは単なる菓子のブランドというよりも、米国を代表する商業ブランドに成長しているといっても過言ではない。
ちょうど米国では、この「M&M's」がホットな話題となっている。このエピソードだが、そもそもは2022年の初頭から「M&M's」のオーナーである「マース社」が、「M&M's」の多彩なカラーを使って、人類社会の多様性をより象徴するようにしてゆきたいと宣言したことに始まる。
その具体化として、まず「緑」のキャラクターの問題があった。長年「男性のキャラクター」であった「緑」を女性に変え、更に靴を「ブーツ」より「セクシーでない」スニーカーに履き替えさせたのである。また、22年秋には「パープル(紫)」のキャンデーが導入された。キャラクターの声優には、アフリカ系女性のコメディアンとして、史上初めて深夜のコメディ番組の主役兼司会者となったばかりのアンバー・ラフィンが起用された。
こうした一連の「変化」には、保守派から反発の声が上がった。特に、FOXニュースのコメンテーターで、トランプなど保守ポピュリストに近い、タッカー・カールソンらは、「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」のやり過ぎで、国民的ブランドが歪められたとして、激しく批判を展開した。
確かに、現在の米国のカルチャーでは「紫」はアフリカ系の誇りの象徴として使われることが多い。政治的な左右や人種間の分断が激しくなっている中で、たかが「お菓子の色付け」では済まない問題だというわけだ。また、「緑」のキャラクターから「セクシズム」を排除するための靴の履き替えも「キャンセル・カルチャー」だとして、カールソンは激しく反発していた。更に、マース社は、この「緑」と「紫」に有色人種を示す「茶」を合わせた『女性応援』スペシャル・パックを発売、これも相当に保守派を刺激した形となった。
これに対して、「M&M's」の側では「このままではM&M'sのキャラクターを守ることができない」として、色別のキャラクターを「一気に廃止する」と宣言。全米に衝撃が走った。
ただ、実はこの「引退」は計算されたマーケティング戦略だったようで、この2月12日に行われる全米最大のスポーツの祭典『スーパーボウル』における「M&M's」のTV広告では「M&M's」のキャラクター達が戻ってくるようだ。その扱いとしては、「緑」の靴はブーツに戻し、一方で「紫」のキャラクターも残すが、ラフィンは外される。その上で、恐らくは「紫」だけでなく、全体的な「M&M's」のメッセンジャーとして、ラフィンより年齢的に上でアフリカ系とユダヤ系の先祖を持つコメディ女優のマヤ・ランドルフに変更するという。