2023年2月に5000品目を超える食品や飲料が値上げを予定しているとの調査結果が先ごろ信用調査会社によって発表された。原油価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻による穀物輸出等の減少、長引く新型コロナウイルスによる半導体および工業製品の供給遅れなどにより、物価は継続的に上昇している。
これにより、日本銀行が「異次元の金融政策」のもと目標としてきた年2%の物価上昇(インフレ)率は、名目的には達成されたものの、賃金の上昇を伴ういわゆる「好循環」下のインフレーションとはなっていない。このため、図1に示すように、名目賃金から物価上昇分を差し引いた、実質賃金はむしろ下落している。
例えば、去年までコメが1キログラムあたり1000円で購入できたとする。今年になって賃金が時給1000円から1100円に10%増加したとする。このとき、物価上昇がなければ、1時間の労働1100円もらえるわけであるから、コメが1.1キログラム購入でき、暮らしぶりは向上することになる。ところが、ここで物価上昇が起こり、去年1キログラムあたり1000円で買えていたコメが1200円になったとする。そうすると、1時間の労働で得た1100円で買えるコメの量は1.1キログラムではなく、1100/1200≒0.92キログラムとなり、名目的に賃金が上がっても、賃金の実質的な購買力が物価上昇によって下落していることになる。
賃金さえ上げれば新しい資本主義は実現するか
政府は「新しい資本主義」の考え方のもと、積極的な賃金引き上げを通じて「成長と分配の好循環」を創り出す政策をとるとしている(図2)。
しかし、分配(賃上げ)が行われても、それを物価上昇によって打ち消されてしまっては、生活は改善しない。それどころか、賃上げのコストが製品価格に上乗せ(転嫁)され、さらなる物価上昇を引き起こしてしまうと、螺旋階段にように「インフレがインフレを呼ぶ」という「デフレ・スパイラル」の逆の悪循環が起こりえない。そのうえで、インフレが過熱してゆくことになれば、欧米の中央銀行の例から見て、日本銀行は金利の引き上げを行わざるを得ず、金利変動型住宅ローンの利払いの増加や企業の新規投資の減少や、金融引き締めによる株価の下落も心配される。
このように考えると、単に賃金を上げれば生活がよくなり、売上が増えて経済成長が促されるというわけにはいかないことが分かる。これは経済の需要面だけをクローズアップした考え方で、賃金が製品のコストアップをもたらす可能性があるという供給面にも焦点をあてる必要があるといえる。