このように、指標として統計的に発表されている物価上昇率の家計への影響は、地域的な平均消費水準の違いと、さらに平均的な所得の違いによって最終的に大きく変動するということになる。このことを理解するため、図3では横軸に表1の物価上昇率、縦軸に表3で示した負担増分の所得対比をとり両者の関係を図示したものである。
これを見ると、おおむね物価上昇率が大きい地域ほど、負担増分の所得対比が大きくなる傾向が見て取れる。しかし、図3の中の点線で示された全国のトレンド線よりも上位に位置する地域は、物価上昇率の相場よりもより重い負担を負っていることになる。
図3では大阪市、長野市、仙台市、佐賀市、長崎市、奈良市、大分市などである。表1では大阪市、長野市、仙台市は上位にランクされていたが、佐賀市、長崎市、奈良市、大分市は下位のランキングであり、特に大分市は第51位であった。
この逆のトレンド線よりも下位の地区として札幌市、秋田市、福井市、大津市、高知市があげられる。札幌市は表1で全国トップの物価上昇、秋田市も比較的高位にランクされていたが、月間の可処分所得対比で見ると全国トレンドよりも負担はややマイルドになっていることを示す。福井市は表1では中位後半、大津市、高知市は低位にランクされており、特に高知市は表1,2,3のすべてで第52位と比較対象となった都市の中では物価上昇の影響が小さいという結果となった。
物価と所得それぞれをにらんだ政策を
今回、物価上昇率の地域的な差に焦点を当てたが、物価上昇は所得との対比で議論しなければ、その本当の影響は分からないことが明らかとなった。退職後に移住を考えている人の居住地選択では、年金はどこに移住しようと変化はないが、移住先候補の物価や非常勤で働く場合の賃金などとのバランスも考慮に入れる必要があろう。
逆にマクロ経済で言えば、賃金が上昇しても物価の在り方いかんでは実質的な暮らしぶりは改善しないといえる。賃金、物価の対策も全国一律のものではその効果が地域によってまちまちとなってしまう。政府には賃金決定と物価政策を両目でにらんだ政策を期待したい。