2024年5月5日(日)

都市vs地方 

2023年2月7日

 今、起こっているインフレは所得が上昇して需要が伸びたことによって生じている「デマンド・プル・インフレ」ではなく、原材料・エネルギー価格の上昇等から生じている「コスト・プッシュ・インフレ」であることが問題である。下手をすると、不景気の中の物価高と呼ばれる「スタグフレーション」という事態に陥る可能性さえ持っている。

物価上昇の影響を最も受けた地域はどこか

 ここでは、実質賃金にあらわれる現実的な生活水準に影響を持つ「物価上昇」を地域別に比較してみることとする。地域別(各都道府県の主要都市)の物価は、総務省の「消費者物価指数」により月別に公表されている。ここでは22年12月時点の物価指数の公表資料から、前年同期比の指数をとり、昨年1年間での物価の上昇を見ることとする(表1)。

(出所)総務省「消費者物価指数(2020年基準消費者物価指数)」 写真を拡大

 表1を見ると、昨年最も物価上昇が大きかった都市は、札幌市で4.8%、最も小さかった都市は高知市で2.7%であったことが分かる。東京都区部はもともと物価水準が高いものの、22年の上昇率は3.9%と中位に順位する。

 物価上昇が高い地域は、地域的には北日本、東日本の都市がやや多いような印象を受ける。人口規模に関しては政令指定都市も一般の都市もまんべんなくばらついているように見える。

 表1での最高位と最低位の開きは2.1%ポイントある。これだけでは、差が大きいといえるのかさほどではないといえるのか判定しがたい。そこで、物価上昇率の差が一般の世帯にとってどのくらいのインパクトを持つのかを、独自に「金額」で試算したものが表2である。

(出所)総務省「消費者物価指数(2020年基準消費者物価指数)」および「家計調査(月報)」より筆者計算。21年12月の2人以上の勤労者世帯の消費支出額(円/月)を使用。 写真を拡大

 表2では、21年12月の各地域における2人以上の勤労者世帯の月間消費支出額に、21年12月から22年12月までの1年間の物価上昇率(表1)を掛け合わせ、「もし昨年と同じだけの消費レベルを維持したとしたら、物価上昇によって追加的に増える」といえる負担金額を試算した。この結果は、表1の結果とかなり異なるランキングとなっている。

 表1でインフレ率が第1であった札幌市は第15位まで後退し、代わりに表1で第6位であった鳥取市が第1位となっている。また、表1で第49位であった奈良市は、表2では第17位と大きくランクが上がっている。すなわち、指数としての物価上昇率の地域別の差は、毎月の実際の平均的な消費支出額の大小によって負担の増分は大きく変化するということである。

 表1で第52位であった高知県は、表2でも第52位で物価上昇の金額換算の影響が最も小さくなっている。高知市は物価上昇率が2.7%と小さかったことに加えて1か月の平均的な消費支出額が27万5000円あまりとベースがかなり小さい。このために、22年1年の物価上昇の金額換算で影響は7443円と第1位の鳥取県の2万円余りより60%以上も小さくなっている。

 表2は22年12月に1年前の21年12月と同じ量の消費をしたとしたときに、「1カ月」の消費支出増過分を示したものであるから、年で換算すれば、場合によれば年間10万円以上とかなり大きな金額となる。したがって、この表2を見ると地域による物価上昇の負担増の差は、表1の指標の差よりもかなり拡大していることがわかる。


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