米国では銃に起因する事件、事故が多発している。米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によれば、2020年に銃に関連して4万5222人が死亡しており、その54%が自殺(2万4292件)、43%が殺人事件(1万9384件)である。同年の殺人事件の79%(2万4576件中の1万9384件)、自殺の53%(4万5979件中2万4292件)が銃によって引き起こされている。
これらの数字には、銃による被害はあっても直接の死因が銃ではない事件は含まれていない。銃による被害は実際にはこれよりも多い。
ワシントン大学が行った国際比較調査によると、16年の人口10万人当たりの銃による死亡者数は10.6人である。一部の中南米諸国と比べると少ないものの(エルサルバドルは39.2人、ベネズエラは38.7人、グアテマラは32.3人、コロンビアは25.9人、ホンジュラスは22.5人)、先進国の中では群を抜いて高い(カナダは2.1人、豪州は1.0人、フランスは2.7人、ドイツは0.9人、スペインは0.6人)。
米国では、なぜ、悲惨な事件がこれほど多く発生しているのだろうか。実は、これについては明確な回答は存在しない。
自殺と殺人事件を引き起こす理由は異なっているはずだが、犯罪者や自殺者の心理状態を国際的に比較して明瞭な回答を導いた研究は管見の限りでは存在しない。一つの可能性としては、米国には多くの銃が存在していること(軍事用のものを除いても、人口を上回る3億丁を超えている)が銃に起因する事件、事故を増大させているという仮説がありうるだろう。銃が手元になければ殴り合いで済んだ揉め事が、銃があったために死者を出したということはありそうだ。
だが、人口当たりの銃の数が米国と同様に多いカナダやスイスでは銃に起因する事件はさほど起こっていない。銃の数だけで米国の特殊性を説明するのは困難である。米国で銃関連の事件、事故が多い理由は、米国の文化に原因があるというより他ないのかもしれない。
法的な銃規制は存在
では、銃に起因する事件、事故がこれほど頻発しているにもかかわらず、なぜ米国では実効的な銃規制が行われないのだろうか?
実は、2022年6月には、実効的な内容を持つものとしては、1994年のブレイディ法以来となる銃規制法が成立した。若年購入希望者の身元調査、ドメスティック・バイオレンス(DV)の前科がある者への販売制限、購入資格のない人に代わっての代理購入の取り締まり、密売抑制、学校における治安対策強化などが定められている。
また、自身や他人に危害を加える恐れのある人物から銃を一時的に没収する法律を州政府が成立させた場合、その州政府に財政支援する仕組みも整えている。殺傷力が高い銃の購入可能年齢の引き上げ、大容量弾倉の販売制限は、共和党の反発が強かったために見送られたが、上院で共和党から14人の賛成者を得て超党派で法案が可決したのは画期的だった。
だが、この法律は既に存在する銃を用いた犯罪を抑止する上ではあまり効果がない。既に多くの銃が流通している現状でこのような規制をしても、銃犯罪が減るとは考えにくい。