また、世論や議会の動向に反し、同じ6月に連邦最高裁判所がニューヨーク州の銃規制法に違憲判決を出した。公の場で銃を隠して携帯する許可を得るには、実際の必要性かもっともな理由が必須と定めた、108年もの歴史を持つ法律が覆された。連邦最高裁は、同法が銃の個人的所有権を定める合衆国憲法修正第2条に反すると判断したのだ。
銃規制が進まない理由
ピュー・リサーチ・センターによる21年4月の世論調査によれば、銃規制を厳格化するべきだと回答したのは53%で半数を上回っている。精神に疾患を抱えた人物の銃器購入に対する規制には87%、銃の個人間売買や展示販売会での購入時における身元調査の実施には81%、銃器の販売に関するデータベースを連邦政府が整備することには66%、10発を超える高容量の弾倉の禁止には64%、攻撃用銃器の禁止には63%の人が賛成しているのである。にもかかわらず、実効的な銃規制が進まないのには、いくつかの理由がある。
第一に、銃規制に対する都市と農村の認識の違いという問題がある。米国の都市部は人口が多いこともあり、銃乱射事件が起こると大きな犠牲が出る。また、犯罪が起これば警察が比較的迅速に対応してくれるため、犯罪への処理を警察に任せればよいと考える人が多い。そのため、銃規制をするべきだという議論は強くなっている。
だが、農村地帯では銃規制に反対する人が多い。米国の農村地帯には、隣家まで車で数十分かかるようなところも多く存在する。このようなところで犯罪被害にあうようなことがあっても、警察が迅速に来てくれるとは考えにくい。となると、農村の人々が自衛への強い意識を持ち、銃を所持したいと考えるのは自然だといえる。
都市と農村の対立は犯罪統計を解釈する上でも難しい問題を提起している。人口当たりの銃の数が多い地域(農村)では銃による犠牲者が少なく、人口当たりの銃の数が少ない地域(都市)の方が銃による被害者が多い、という関係が出てくるので、より多くの人が銃を持てば銃犯罪は減るのではないかという議論が提起されるのだ。例えば学校で銃乱射事件が起こった場合、銃乱射事件を防ぐためには、公立学校であっても銃を持つことが必要だという議論が出されたりするのである。
銃規制をめぐる都市と農村の対立は、都市部を基盤とする民主党、農村部を基盤とする共和党の対立とも相まって複雑になっている。
これに加えて、銃規制反対派の政治力の強さを指摘することができる。全米ライフル協会(NRA)という、個人の銃所有の権利を擁護する団体はとりわけ有名だ。
NRAは、「人を殺すのは人であって銃ではない」というスローガンを掲げており、今日では公称500万人という膨大な数の会員と圧倒的な資金力を持っている。「銃を規制すれば、銃を持つのは悪人だけになる」などの効果的なスローガンを作り出すことでも知られており、その組織力の強さから、全米最強のロビー集団の1つだと評されている。
NRAが大きな政治力を持つことができる背景の一つとして、その政策上の立場が強硬ながらも現実主義的なことが挙げられる。NRAは銃規制強化には反対するが、銃に関する既存の法規は遵守するため、現職政治家と協力することが可能だ。