2024年5月21日(火)

Wedge REPORT

2023年2月23日

一番人気のカクテル提供する藤岡さん

 東京のJR四ツ谷駅から徒歩10分。雑居ビルの階段を上ると、「檀家制」と書かれた扉が一際存在感を放っている。店に入ると、至るところに飾られた仏具や天井一面に貼り巡らされた写経が目に入り、酒瓶が並ぶカウンターの奥から2人の僧侶が〝参拝客〟を快く出迎えてくれたーー。

 1月下旬の金曜日、小誌記者が訪れたのは、知る人ぞ知る夜の駆け込み寺「坊主バー」である。

「仏教には本来、禁酒の戒律があるが、浄土真宗にはそれがない。書物には『お酒をふるまっても構わないから語り合う場を作りなさい』という教えもある。坊主バーの原点はそこにある」

 こう話すのはオーナーの藤岡善信さん。日中は埼玉県の寺院で副住職を勤める、浄土真宗本願寺派の僧侶である。日替わり勤務のスタッフもほとんどが僧籍を持ち、曹洞宗や真言宗など宗派はさまざまだ。

「檀家制」と書かれているが、会員制のバーではない

 2000年9月に僧侶5人でオープンした坊主バーは、赤字が続き半年で経営が立ち行かなくなった。そんな中、僧侶学校を卒業し僧籍を得たばかりの藤岡さんが火中の栗を拾う形で経営を再建することになった。

 当時の状況について藤岡さんは、「面白そうだと思い引き受けたが、内装はぼろぼろで、メニューは確立できておらず、お客さんから『どこが坊主バーなのかわからない』と怒られるほどの惨状だった」と振り返る。

 一般の人に仏教を身近に感じてもらうには何をすべきか――。まずは店内の仏教色を強めようと仏具集めに奔走し、「極楽浄土」と名付けたウオッカベースのカラフルなカクテルなど、オリジナルメニューの開発にも取り組んだ。まさに形を変えた〝修行〟であった。そのうちに、口コミが広がり、メディアからも注目を集め、繁盛店へと変貌した。

 開店して23年になる今でも、坊主バーは老若男女問わず幅広い世代の人気を集める。小誌記者が訪れたこの日は「スタッフの包容力に惹かれ週4回通っている」という50代の男性常連客や「仏教好きの会社の同僚に影響され、社内の広報誌のネタ探しも兼ね興味本位で来店した」と話す30代の女性客など、店内は30人近くの客で賑わっていた。僧侶がカウンター越しに、あるいは、店内を巡回しながら客の悩みに耳を傾け、仏教の教えに基づきアドバイスを行う姿が印象的だ。悩みのほとんどは人間関係に関するものだという。

 坊主バーでは、10年以上欠かさずに毎日実施している儀式がある。お経と法話で構成される5~10分ほどの法要だ。藤岡さんは「最初は誰も法話を聞いてくれず、お客さんに『うるさい』と言われることもあった。でも、ぶれずに続けているうちに、今では9割以上の方が法要のために来店してくれるようになった」と話す。

 法要の開始前には、一人ひとりにお経が印字されたプリントが配布され、僧侶と一緒にお経を唱える。この日はスタッフの一人で曹洞宗の僧侶・石田芳道さんにより「般若心経」などのお経が上げられた。まるで本当のお寺にいるかのような錯覚に陥るほど、貴重な仏教体験ができる。

店内の様子。客が書いた一文字の写経が天井一面に貼られている

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