議会、行政を自分ごと化する自治体
では、「他人ごと」を「自分ごと化」するための方策はあるのだろうか。解決策は一つではないだろうが、構想日本が09年から始めた「自分ごと化会議」はその有力な方法の一つだと実感しているので、簡単に紹介したい。
「自分ごと化会議」には、行政が行っている事業を住民がチェックする「事業仕分け(行政事業レビュー)」と、子育て、介護、防災など、身近な問題、地域の未来などを住民自らが議論して考える「住民協議会」の二つの種類がある。ここでは、より住民の意見が反映される後者について説明しよう。
住民協議会は、住民基本台帳から「無作為」に選ばれた住民が参加することが最大の特徴だ。つまり、「くじ引き」によって、いわば「ふつうの人」の幅広い参加が期待できる。
また、住民同士が対話を行うため、シナリオは一切作らない。行政主導の審議会やタウンミーティングでは、多くの場合、行政担当者たちは頭の中で「落とし所」を考えながら、それに向けたシナリオをつくる。だから、いくら住民参加といっても、シナリオ通りに進むことが多く、参加者は意見を表明することはできてもそれが政策に反映されたという実感を得ることはほとんどない。
協議会の当日は、構想日本が派遣するコーディネーターの下で行政職員は説明者、討論者の一人として参加する。協議会は一つのテーマについて数回実施し、最終回で提案書をまとめる。
福岡県久留米市に隣接する大刀洗町では14年から、「自分ごと化会議」を毎年開催し、住民と行政が一体となって議論している。しかも、大刀洗町はこれを町の正式の審議会とすることを全国で初めて条例として制定した。
「くじ引き」で選ばれた住民が条例に基づく公式な審議会を構成するというのは画期的なことであり、これまでに、「ごみ事業」や「健康増進事業」などで住民の提案が町の政策として反映されている。
効果はそれだけではない。「自分ごと化会議」に参加した委員からは、「自分がゴミの始末をきちんとすることでそれだけ町の処理負担が減り、税金を使わないで済むことが分かった」という声が上がったり、「行政への関心が高まり、公務員を目指すことにした」「NPOを作って町のことをやりたい」という人が次々に出てきているのだ。
行政主導で、この町のゴミが何㌧、処理に何億円と聞かされても住民の多くは「そうなんだ」で終わる。
だが、意見を述べ合う「場」を用意し、考える材料が提供され、考える主体になれば、自然と「なるべくゴミを出さないようにするにはどうすべきか」という、自分たちの生活をどうするかといった方向に関心が向かい「自分ごと化」になる。
これまでに無作為に選び、事業仕分けや住民協議会などの委員募集のために送ったはがきは26万枚を超え、そのうちの約1万人(約4%)が参加している(今年1月末時点)。
こうした「点」の取り組みが全国に「面」として広がることで、地方議員にも緊張感が生まれることは間違いない。事実、大刀洗町はもちろんのこと、その他の地域でも、住民協議会を議員が傍聴し、住民の声に耳を傾けるケースが広がりつつある。