司法の独立はどの国においても重要な原則だが、ある国の最高裁が他国との国際約束に反する判決を出した場合はどうするのか。国際約束解釈権は通常三権分立に基づき行政府にある。これは日韓ともに同じで、通常、司法が国際約束に関わる処理をする際は行政府の解釈を聞き判断するので、齟齬は未然に防止される。
実際、韓国政府も、2009年には「(未払い賃金)供託金は請求権協定を通じ日本から無償で受け取った3億ドルに含まれているとみるべきで、日本政府に請求権を行使するのは難しい」との立場をソウル行政裁に提出している。それでも司法が他国との国際約束に反する判決を出した場合に約束違反の結果に責任を持つのはその国の行政府であり、今回、韓国政府はその責任を果たしたと評価される。
緊迫する東アジアの中では韓国との協力は必要
以上のような法的整理の中で、他の問題解決策はあるのだろうか。純粋理論的には「損害賠償」ではなく、「和解・お見舞い等」別の物として処理することはあり得るだろう。徴用工への賠償金充当はあくまで「韓国側」民間企業の自発的拠出からなされる。
今後、経団連が韓国全経連と調整する未来志向の基金に対しては、徴用工判決の当事者を含む日本側民間企業が自主的に拠出することに日本政府は反対しないが、この基金の目的は全く別物だ。日本側が踏み込まなかったのは、やはり「最終的かつ不可逆的な解決」とされた慰安婦日韓合意をいとも簡単に反古にし、今回の大法院判決も放置した前韓国政権の対応で必要な信頼関係が根本的に破壊されたからに他ならない。
日本周辺の戦略環境を考えれば韓国と安全保障分野を含め緊密に協力することが優先的戦略目的なのは明白だ。そのために重要なのは、具体的な協力を進め、それにより日本の韓国重視を示すことだ。
副次的効果として韓国政権交代による政策スイングをできるだけ限定することに繋がれば一石二鳥だ。例えば、韓国のクアッド入り提案はどうか。地域的責任を果たすべき立場にある韓国がクアッドのような地域の重要な枠組みに入れば、その責任を認識するだけでなく、政権交代による無責任な政策スイングの幅を減らすことにも繋がり得る。