2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月8日

 過去1年、西側はウクライナが成功を定義し西側の戦争目的を定めることを認めてきたが、この政策は、戦争の当初はともかく、今やその使命を終えた。この政策は賢明ではない。何故なら、ウクライナの目標は西側の他の利益と衝突しつつあるからである。

 また、この政策は持続可能でもない。何故なら、戦争のコストが増しており、支持の継続に対する西側の一般市民と政府の疲れが増大しつつあるからである。

*   *   *

 米国の政策形成にも影響力を有すると思われる両名が西側の政策の転換を求める見解を公にしたことは注目されなければならない。要は、今年末にかけて休戦に持ち込むということである。休戦の先にあるのは永続的な和平ではなく、朝鮮半島と同様の「凍結された紛争」だと見通している。

 それを実現するための前提として、ウクライナが西側の戦争目的を定めることを認めて来た従来の路線を放棄すべきだと明言している。バイデン政権は、戦争を終わらせるための交渉を何時どうするかはウクライナの判断であり、圧力をかけることはしないと言ってきた。

 これに対し当論文は、ウクライナに休戦を押し付けるとは言わないまでも、強い姿勢で説得に当たるべきことを示唆しており、戦い続けるウクライナにいつまでも支援は続かないとの強硬姿勢が垣間見える。

 当論文は、西側のプライオリティは「主権的で確たる民主主義としてのウクライナの存在を維持すること」と認めつつ、それは短期的には領土的一体性の回復を必要としない、として休戦を正当化している。

 しかし、2014年に占領されたクリミアとドンバスの一部はともかくとして、海に面したザポリージャとへルソンを占領され海への重要な出口を封じられた状態は、ウクライナの経済的な存立に重大な障害とならないのか? この地域の産業は破壊されたかも知れないが、その潜在的重要性はどのように評価されるのか?

 この地域をウクライナが奪回出来れば、それは2022年2月以前の状態に近づくことを意味し、ロシアに報償を与えないとの原則に近づくことにもなろう。この論説が、休戦は「凍結された紛争」に転じると想定しつつ、休戦ラインの位置に無関心であることは理解し難い。

ウクライナの失地回復は必須だが……

 上記に関連するが、西側はウクライナが反転攻勢に際しロシア軍を極力2022年2月の線に押し戻せるよう、ウクライナに対する武器支援を格段に強化すべきである。それによって、ウクライナが黒海とアゾフ海沿岸地域を解放することに成功すれば、休戦をよほど受け入れ易くなるであろう。成功とまでは行かなくとも、戦場で最善を尽くしたとの達成感をウクライナに抱かせることは重要であろう。

 確かに、ウクライナが定義する戦争目的に沿ったウクライナ支援という政策は、西側の他の利益・プライオリティと衝突しつつある。支援疲れの問題もある。従って、今年末にかけて休戦に持ち込むべきだとの論旨は理解し得るものである。米国の大統領選挙を来年に控え、対ウクライナ支援政策が党派的駆け引きの餌食となることを避けることは賢明であろう。いずれ戦争が終わるとすれば、それは「凍結された紛争」の形とならざるを得まい。

 しかし、問題は、その状態である。ウクライナが説得されるとすれば、それは反転攻勢で失地を回復する重要な戦果をあげた場合ではないかと思われる。ただし、その場合、ロシアが休戦に応ずるかは見通し難い。

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