2024年7月16日(火)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2023年5月8日

国際社会の役割とは

 「和戦の決定権は侵略被害者であるウクライナ政府と国民にあり、ウクライナが抵抗を望む限りは国際社会はそれを支援すべきである」という意見は正当なものである。それを否定する必要は全くない。現時点でウクライナ戦争の即時停戦を求めることほど侵略者を利し、われわれが築いてきた国際規範や正義を踏みにじる主張はない。

 しかし同時に、完全な正義の追及が完全なカタストロフィ(破滅的結末)をもたらす危険性にもわれわれは自覚的でなければならない。カタストロフィは何もロシアによる核使用だけを意味するわけではない。停戦チャンスを喪失することによるウクライナの完全敗北という可能性も存在するのである。

 いずれにせよ、それらはウクライナにとっても世界にとっても悲劇である。端的に言ってウクライナ戦争はもはやウクライナとロシアだけの戦争ではない。今後50年、100年の国際社会の道行きを決める試金石となっているのである。その意味でウクライナ戦争の「責任」を勇敢なウクライナ人だけに押し付けるべきではない。われわれもまた当事国なのである。

 ウクライナ戦争が正義の回復、すなわちウクライナの完全勝利によって終わることは極めて望ましい。そのためには戦場におけるウクライナ軍の勝利と共に、ロシアによる核使用を牽制しつつ、撤退を受け入れさせるという極めて難しい作業を並行しなければならない。その困難性を軽視すべきではない。そしてこれはむしろ国際社会の仕事である。

 また同時に〝ロシアに完全な勝利を与えないために〟国際社会が不愉快な決断をしなければならない可能性もわれわれは認識していなければならない。そうならないための、そうなったとしても「不正義」を最小限に抑えるための冷徹なマネジメントも求められるだろう。その時こそ、国際社会は太平洋戦争開戦からのおよそ80年間に培った英知と理性を試されるだろう。

日本の役割とは

 とはいえ現状では、政治的・地理的理由から日本が果たすことができる貢献には一定の限界があることも事実である。日本はNATO諸国のように武器支援や訓練支援などによって戦況に直接的影響を及ぼすことは難しい。米国が行っているように、ウクライナ政府の政策・戦略決定に直接協力することも困難だろう。

 しかし衰えたりといえどもわが国は世界第三位の経済大国であり、アジアで最も成功した民主国家である。非NATO諸国で唯一、有色人種国家で唯一の主要国首脳会議(G7)構成国でもある。そしてなにより世界唯一の戦争被爆国である。その影響力は決して小さくはない。今春3月の岸田文雄首相のキーウ訪問が、習近平中国国家主席のモスクワ訪問との対比によって大きな国際的インパクトを持ったように、外交力を発揮できる場面は必ずある。

 G7・NATO諸国と歩調を合わせながら、その結束を強化し、加えていわゆるグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)諸国からウクライナ支持輿論、反核輿論を調達するために、日本が果たすことができる役割は大きいはずだ。そのためには政府の努力だけではなく、岸田首相のキーウ訪問の政治的意義を「しゃもじ論争」に矮小化するような野党や一部マスコミの低次元な論争を繰り返してはならない。


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